トップページ > データボックス > 衛研ニュース > No.189

印刷用はこちら(PDFダウンロード形式)PDF

神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.189

インフルエンザ 近年の状況

2018年11月発行

インフルエンザは冬季に流行する呼吸器感染症で、病原体はインフルエンザウイルスです。38℃以上の急激な発熱で発症し、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛などを伴うことが多く、一般的な「かぜ」よりも重症感が強いのが特徴です。通常は一週間程度で回復しますが、インフルエンザに感染した後に脳症や肺炎を起こしたり、既往症(心臓病、慢性呼吸器疾患など)が悪化するなどして命にかかわる場合もあるため、注意が必要です。
ヒトのインフルエンザにはA型、B型、C型がありますが、季節性インフルエンザとして毎年流行するのはA型とB型です。さらに、ヒトのA型インフルエンザにはAH1pdm09とAH3の2種類のHA亜型1)があります。AH1pdm09は2009年に、AH3は1968年にパンデミック(世界的大流行)を起こしたウイルスです。また、B型インフルエンザにはHA亜型はありませんが、ビクトリア系統と山形系統の2種類の系統に分類されます。

1)HA亜型:HAとはhemagglutinin(ヘマグルチニン、血球凝集素)の略で、インフルエンザウイルスが細胞に結合するために働く糖たんぱく質です。A型インフルエンザウイルスでは、17亜型が確認されています。

患者発生状況

日本では、例年、お正月休み後にインフルエンザ患者数が急増します。患者発生のピークは1月末~2月初めとなることが多く、流行の終息は4月頃です。流行の状況は定点あたり患者報告数2)でみることができます。インフルエンザの場合、1を超えると流行の始まりとみなし、10を超えると注意報、30を超えると警報が発令されます。ピークを過ぎた後患者数が減少して10を下回ると警報は解除され、1を下回ると流行は終息したとみなします。また、インフルエンザシーズンは、9月から翌年の8月を1シーズンとして集計しています。

2)定点あたり患者報告数:1週間における指定された医療機関あたり(定点あたり)の患者報告数を表す数値で、感染症の流行状況が把握できます。

過去9シーズンの神奈川県域3)の患者報告数の推移をみてみると、AH1pdm09によるパンデミックが起きた2009/2010シーズンは例外的に10~12月に流行が起きていますが、その他のシーズンは12~4月に流行が起きています(図1)。直近の2017/2018シーズンは、ピーク時の定点あたり患者報告数が60を超え、シーズン累計の患者報告数も4万人を超えて、2010/2011シーズン以降で最も大きな流行となりました。

図1 インフルエンザ患者報告数の推移(神奈川県域)

3)神奈川県域:横浜市、川崎市、相模原市を除く神奈川県内の市町村です。

インフルエンザウイルス調査

当所では、患者検体(鼻咽頭由来)からインフルエンザウイルスの検出を行い、ウイルスの流行状況や流行ウイルスの特徴を調査しています。過去5シーズンの神奈川県域の検出割合をみてみると、2013/2014、2015/2016、2017/2018シーズンは複数の型による混合流行、2014/2015、2016/2017シーズンはAH3が主流行株となりました(図2)。

図2 インフルエンザウイルス検出割合(神奈川県域)

薬剤耐性株調査

インフルエンザの治療には、抗インフルエンザ薬が使用されます。中でもノイラミニダーゼ4)阻害剤(オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビル)は種類も多く、広く治療に使用されています。また、平成30年3月には、ノイラミニダーゼ阻害剤とは作用機序の異なる新しい薬剤が認可され、本(2018/2019)シーズンから本格的に使用されるようになると思われます。

4)ノイラミニダーゼ:インフルエンザウイルス表面に存在し、ウイルスが細胞から離れる時にハサミの役割を果たします。ノイラミニダーゼ阻害剤はノイラミニダーゼの働きを抑制して、ウイルスの増殖を妨げます。

このように、抗インフルエンザ薬の開発により薬剤治療の選択肢が増えた一方で、薬が効きにくいウイルス(耐性株)の出現が懸念されています。2009年以前に流行していたAH1亜型(ソ連型)では、オセルタミビルに対する耐性株の割合が、2007/2008シーズンには約3%でしたが、翌2008/2009シーズンにはほぼ100%になり、その後の治療への影響が懸念されました。ところが、このオセルタミビル耐性のAH1亜型は、2009年春のAH1pdm09の出現とともに検出されなくなり、以後の流行に影響することはありませんでした。しかし、現在流行している季節性インフルエンザについても、今後耐性株が出現する可能性があるため、全国の地方衛生研究所と国立感染症研究所が協力して調査を実施しています。
AH1pdm09のオセルタミビル耐性には、ノイラミニダーゼ遺伝子の275番目のアミノ酸のヒスチジン(H)からチロシン(Y)への変異(H275Y)が関与していることが報告されています。当所では、AH1pdm09分離株についてH275Y変異の調査を行っています。2017/2018シーズンは、AH1pdm09分離株83株中 2株のオセルタミビル耐性株が検出されました。過去にも、AH1pdm09が多く検出されたシーズンには数例のオセルタミビル耐性株が検出されましたが、散発的な検出にとどまっています(表1)。

表1 AH1pdm09分離株のオセルタミビル耐性調査(神奈川県域)

しかし、北海道においては、2013/2014シーズンにオセルタミビル耐性株による地域流行が確認されました。その後、全国的に耐性株による流行は確認されていませんが、引き続き耐性株の監視が必要です。
また、国立感染症研究所では、全国で分離された株の一部について、4種類のノイラミニダーゼ阻害剤に対する薬剤感受性試験を実施しています。その報告によれば、2017/2018シーズンに検出されたオセルタミビル耐性株は、同時にペラミビルに対しても耐性を有していましたが、ザナミビルとラニナミビルに対しては耐性はありませんでした。

本シーズンの状況

本シーズンは、神奈川県域では9月最初の週(36週)に報告された患者からAH3が検出されています。また、県内では、同時期に横浜市で学級閉鎖が発生しているとの情報もあります。9月末現在、神奈川県域ではまだ患者数は少ないですが、過去2シーズンには連続して11月中に流行期入りしていることから、本シーズンも早めの対処が必要と考えられます。ワクチン接種、手洗いやうがい等の衛生行動、休養やバランスの良い食事を心がけるなど、一人一人がインフルエンザにかからないように気をつけることが大切です。「インフルエンザかな?」と思ったら、早めに医療機関を受診するとともに、周囲のヒトにうつさないよう、咳やくしゃみが続くときはマスクをするなどの「咳エチケット」を心がけましょう。
神奈川県感染症情報センターでは、感染症の患者発生情報(週報)、インフルエンザや感染性胃腸炎等の流行している疾患の情報(トピックス)などもお知らせしていますので、是非ご覧ください。

(参考リンク)

(微生物部 渡邉寿美)

   
衛研ニュース No.189 平成30年11月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1
電話(0467)83-4400   FAX(0467)83-4457
http://www.eiken.pref.kanagawa.jp/

トップページへ戻る衛研ニュースへ戻るこのページのトップへ