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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.187

侵襲性髄膜炎菌感染症(しんしゅうせいずいまくえんきんかんせんしょう)を知っていますか?

2018年7月発行

「侵襲性髄膜炎菌感染症」という病気を聞いたことはありますか?日本での発生数は少ない感染症ですが、発症すると急激に症状が悪化し、命に関わることもあります。さらには、たびたび集団感染につながることから、感染拡大を防止することが重要です。今回はこの侵襲性髄膜炎菌感染症についてご紹介します。

感染経路・症状・治療

侵襲性髄膜炎菌感染症の原因となる髄膜炎菌(Neisseria meningitidis )はヒトを唯一の宿主とする細菌で、主にのどに感染し、咳などを介して感染が拡大します。健康なヒトの中にも一定の割合で保菌者がいることで知られ、日本でのその割合は、過去の調査から0.4%ほどとされています(田中ら、2005)。しかし、まれに血液や髄液に侵入し、菌血症や敗血症、髄膜炎を伴う侵襲性髄膜炎菌感染症を引き起こします。
侵襲性髄膜炎菌感染症は、はじめは咽頭炎など風邪に似た症状を示しますが、その後急激に悪化し全身の壊死を呈します。治療しなければ致死率は50%に達すると言われており(Meningococcal meningitis、世界保健機関(WHO)ウェブページ)、治療した場合でも壊死による手足の切断など重篤な後遺症をもたらす可能性があります。そのため、発症した際にはペニシリンGまたはアンピシリン、第三世代セフェム系抗菌薬による迅速な治療が必要となります。

疫学

侵襲性髄膜炎菌感染症の集団感染の多い地域として、アフリカ中央部のベナン、スーダン、エチオピアなどの国を含む「髄膜炎ベルト地帯」が知られています(図1)。この髄膜炎ベルト地帯では、たびたび流行が発生し多数の死者がでています。先進国でも集団感染が報告されており、特に学生寮などで共同生活を行う若年層に多いとされています。このため、米国では10代の若者に対するワクチン接種を推奨しています。
日本では、戦後は年間1000名を超える患者が発生していましたが、徐々に減少し近年は年間約20~40名前後と諸外国と比較して低い発生数となっています(図2)。しかし、2011年の宮崎県の学生寮(病原微生物検出情報(IASR)、32:298-299、2011)や、2015年に山口県で開催された世界スカウトジャンボリー(IASR、36:178-179、2015)での発生など、集団感染が散見されています。
このように、侵襲性髄膜炎菌感染症は、患者の容態が急激に悪化することに加え、集団感染が起こりうることから、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律で5類感染症に分類され、届け出が義務づけられています。さらには、宮崎県での事例を受け、2012年に学校保健安全法の第2種感染症に規定されました(IASR、39:1-14、2018)。

図1 髄膜炎ベルト地帯
Meningococcal meningitis, countries or areas at high risk, 2014(アクセス日:2018年6月27日)をWHOより許可を得て改変)

図2 日本における侵襲性髄膜炎菌感染症の患者報告数の推移
(IASR、34:361-394、2013より改変)

  • 1999年3月までは「伝染病統計」による流行性脳脊髄膜炎患者数
  • 1999年4月から2013年3月までは発生動向調査における髄膜炎菌性髄膜炎の報告数
  • 2013年4月からは発生動向調査における侵襲性髄膜炎菌感染症の報告数
  • 図中の棒グラフは1970年から2016年までの拡大図

集団感染の拡大を防ぐために

侵襲性髄膜炎菌感染症が発生した場合、患者に対する迅速な治療とともに濃厚接触者に対する抗菌薬の予防内服が推奨されているほか、保菌調査などが必要となることもあります。この際に、菌株を確保し疫学的な解析を行うことが感染経路の解明や将来的な対策のために重要です。先に挙げた宮崎県の事例では残念ながら1名の方が亡くなられましたが、感染拡大を防ぐために、保健所、医療機関、地方衛生研究所および国立感染症研究所などが連携し、保菌調査や濃厚接触者に対する予防内服の推奨、菌株解析、サーベイランスの強化などを実施しました(IASR、32:298-299、2011)。

髄膜炎菌の解析について

髄膜炎菌はチョコレート寒天培地上で、乳白色のコロニーを形成します(図3)。また、グラム染色という方法で赤い色に染まり、二つの球が連なった形を示すグラム陰性双球菌です(図4)。髄膜炎菌は、通常、莢膜と呼ばれる膜に包まれており、この膜にある抗原の種類によって12の血清群に分けられています。血清群を調べることは、現在どの群による髄膜炎菌感染症が流行しているのか、海外と日本で菌株に違いがあるのかなど、疫学的な解析を行う上で重要です。これら12種類の血清群のうち、A、B、C、X、YおよびW群が侵襲性髄膜炎菌感染症の原因となることが多く、日本の場合、以前はB群に、近年ではY群によるものが多いことが明らかになっています(IASR、39:1-14、2018)。
遺伝子解析法の一つとして、細菌の発育や維持に不可欠な遺伝子の塩基配列を比較することにより、分子レベルで分類、解析するMultilocus sequence typing (MLST)が実施されています。国立感染症研究所の高橋らはこの解析法により、国内には海外からの移入株に加えて、日本固有の株が存在することを明らかにしています(高橋、2009)。近年は全ゲノムシークエンス解析も発達してきており、さらに詳細な解析が可能となることが期待されています。
※ウマなどの血液を入れた培地を加熱処理したもので、チョコレートのような色がついていることからこのような名前になりました。


図3 チョコレート寒天培地に発育した髄膜炎菌
(乳白色の点が髄膜炎菌のコロニーです)


図4 髄膜炎菌のグラム染色像

ワクチンについて

現在までにA、B、C、YおよびW群に対して、ワクチンが開発されています。日本では、これらのうちB群を除く4つの血清群に対応したワクチンが平成27年5月より販売され、接種できるようになりました。侵襲性髄膜炎菌感染症の多発地域に渡航する際などに、ワクチンを接種することが推奨されています。

おわりに

髄膜炎菌はヒトを唯一の宿主とし環境中では生存できないことに加えて、日本では保菌者も少なく、侵襲性髄膜炎菌感染症の発生は多くありません。そのため、いたずらに不安を持つ必要はありませんが、流行地域への渡航の際にはあらかじめワクチンを接種することが望ましいとされています。さらには、患者が発生した際には、迅速な治療に加えて、必要に応じて濃厚接触者に対する予防内服を行うなど、感染拡大に対する防止策が重要です。
神奈川県衛生研究所では、過去に保菌調査を実施したほか(田中ら、2005)、侵襲性髄膜炎菌感染症が発生した際には、菌株を収集、解析し感染の拡大防止に貢献しています。

<参考文献及びサイト>

  • わが国の健康者における髄膜炎菌の保菌状況(田中ら、感染症学雑誌、79:527-533、2005)
  • Meningococcal meningitis(世界保健機関(WHO)ウェブページ、アクセス日:2018年6月27日)
  • Meningococcal meningitis, countries or areas at high risk, 2014
    (世界保健機関(WHO)ウェブページ、アクセス日:2018年6月27日 )
  • 病原微生物検出情報(IASR)、32:298-299、2011
  • 病原微生物検出情報(IASR)、36:178-179、2015
  • 病原微生物検出情報(IASR)、39:1-14、2018
  • 病原微生物検出情報(IASR)、34:361-394、2013
  • 髄膜炎菌Neisseria meningitidis の病原性に関する研究(高橋、日本細菌学雑誌、64:291-301、 2009)

(微生物部 陳内 理生)

   
衛研ニュース No.187 平成30年7月発行
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