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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.183

ウイルス感染による流行性筋痛症

2017年11月発行

“筋肉痛”というと運動した後に起こるイメージがありますが、ウイルスの感染によっても筋肉痛が引き起こされることをご存じですか。神奈川県では2016年と2017年の夏季に、筋肉痛を主訴とする「流行性筋痛症/ウイルス性筋炎」(以下、流行性筋痛症)の患者から「ヒトパレコウイルス3型」を検出しました。今回は、流行性筋痛症の症状、神奈川県での発生事例やヒトパレコウイルス3型の特徴についてご紹介します。

流行性筋痛症って?

“流行性筋痛症”という病名を多くの方はご存じないかと思いますが、NHKの医学系番組で取り上げられたこともある感染症です。ウイルス感染後、数日の潜伏期の後に、発熱や咽頭痛などのかぜ様症状とともに筋肉痛が出現します。筋肉痛は痛みが強い人から比較的軽度な人まで様々ですが、通常は数日で軽快します。
日本での流行をみますと、1999年に愛知県でコクサッキーウイルスB群による流行性筋痛症の報告がありました。このウイルスは夏季に小児に流行する代表的な疾患である手足口病やヘルパンギーナを引き起こすエンテロウイルスの一種です。過去にデンマーク領ボルンホルム島でこのウイルスによる筋痛症が流行したことから、ボルンホルム病とも呼ばれています。
2008年には山形県において、20~40歳代の若年成人を中心に発熱や咽頭痛に加え、腕や足の筋肉の痛み、脱力を訴える患者が多発しました。初めはコクサッキーウイルスB群を中心としたウイルス検査が実施されましたが、これらのウイルスは検出されなかったため、さらに詳細な検査を行った結果、ヒトパレコウイルス3型が検出されました。これらの調査は山形県衛生研究所を中心としたグループにより実施され、世界で初めてヒトパレコウイルス3型による成人の流行性筋痛症の報告となりました。また、2014年にも山形県において、小児の筋痛症患者からヒトパレコウイルス3型を検出したと報告されています。
筋肉痛は、コクサッキーウイルスでは前胸部、背部および上腹部に、ヒトパレコウイルス3型では四肢近位筋(上腕や大腿)に多く出現します。

神奈川県での流行性筋痛症事例

神奈川県では2016年に初めて、ヒトパレコウイルス3型による小学生と成人の流行性筋痛症事例が発生しました。その事例について紹介します。

(事例1)2016年6月中旬~下旬にかけて小学生4名(男3名、女1名、平均年齢10歳)がウイルス性筋炎と診断されました。すべての患者に発熱、疼痛(筋肉痛、全身性疼痛あるいは関節痛)を認め、うち2名は歩行困難となりました。他に、咽頭痛、発疹が見られました。3名は同じ小学校であり、うち2名は兄弟でした。

(事例2)2016年9月下旬~10月中旬にかけて同一職場に勤務する成人男性2名(38歳、30歳)と散発例の1名(39歳)が流行性筋痛症と診断されました。すべての患者に筋肉痛が認められ、他に発熱、口内炎、舌炎、咽頭痛あるいは陰嚢痛が見られました。上腕や大腿に筋肉痛が起こったことからヒトパレコウイルス3型の関与が疑われました。3名の患者の発症前には、自身の子に急性胃腸炎症状がみられました。

当所でのウイルス検査は、培養細胞を用いたウイルス分離検査(図1)およびウイルス遺伝子増幅検査(図2)を実施しています。これらの検査の結果、すべての患者からヒトパレコウイルス3型遺伝子が検出され、ヒトパレコウイルス3型感染による流行性筋痛症であることが判明しました。本ウイルスは2017年7月に発生した成人の流行性筋痛症の1例からも検出されています。

ヒトパレコウイルス3型感染症

ヒトパレコウイルス3型は、ピコルナウイルス科に分類され、小児の夏かぜの代表的な疾患である手足口病やヘルパンギーナの原因ウイルスであるエンテロウイルスと同じ科に属しています。ピコルナウイルス科のウイルス属はエンベロープと呼ばれる脂質膜を持たず、直径22-30nmと極めて小さく、正20面体をしています(図3、図4)。ヒトパレコウイルス3型は2004年に愛知県衛生研究所の研究員が世界で初めて報告した、比較的新しいウイルスです。
ヒトパレコウイルス3型が新生児および乳児に感染すると、無菌性髄膜炎、麻痺、脳炎、胃腸炎、呼吸器症状や発疹などを発症し、稀に重症例も認められることから、小児ではとても重要な感染症となっています。成人では、以前はほとんど報告がありませんでしたが、近年では流行性筋痛症の原因ウイルスとして知られるようになりました。
ヒトパレコウイルス3型の流行は2~3年に1回、夏かぜのシーズンに起きており、過去10年では2008年、2011年、2014年、2016年に多数検出されています(図5)。小児でのヒトパレコウイルス3型の流行が大きい年に、流行性筋痛症患者の報告も多い傾向にあります。


対処法と予防法

通常、ヒトパレコウイルス3型による流行性筋痛症は数日から1週間くらいで回復しますが、脱力や歩行困難などの症状が出現することもあるため、症状が続くような場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
ヒトパレコウイルス3型は主として夏季に子供の間で流行しますが、子供から大人に感染が拡がることもあります。特に、家族内に夏かぜ症状を呈する人がいる場合には、二次感染に注意しましょう。ヒトパレコウイルス3型は主に口などから侵入して感染します。患者の症状が治まった後も1カ月くらいは便中にウイルスが排出されることがあります。ヒトパレコウイルス3型は脂質膜を持たないため、アルコール消毒は効果的ではありません。ヒトパレコウイルス3型を含めたウイルス感染症を予防するためには、まずは「手洗い」と「うがい」が重要ですので、日ごろから心がけましょう。

(参考文献/参考リンク)

(微生物部 佐野貴子)

   
衛研ニュース No.183 平成29年11月発行
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