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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.182

下痢性貝毒の規制が変わりました

2017年9月発行

2016年3月6日に厚生労働省より「麻痺性貝毒等により毒化した貝類の取扱いについて」が通知されました。この通知により、下痢性貝毒の規制値は0.05マウスユニット(MU)/g可食部から0.16mgオカダ酸当量/kg可食部に改正され、試験法もマウス毒性試験法から機器分析法に変わりました。下痢性貝毒とはどんなものなのか、貝毒の規制値や検査はどう変わったのでしょうか。

貝毒って、知っていますか?

貝による食中毒には、微生物に起因する場合や貝そのものが毒化する場合があります。貝そのものが毒化した場合に、その毒を貝毒といい、食品衛生法では第6条で、販売等をしてはならないとあります。貝毒の種類には「下痢性」「麻痺性」「記憶喪失性」「神経性」などがあります。日本国内で発生報告がある二枚貝の貝毒による食中毒は「下痢性」「麻痺性」によるもので、食品衛生法ではこの二種類の貝毒について規制値が設定されています。下痢性貝毒が世界で最初に報告されたのは、1970年代東北地方での事例でした。中毒症状は下痢、嘔吐、腹痛などを主体とし、食後30分~4時間以内に起こることが多く、発熱はなくおおむね3日以内に回復し、後遺症や死亡例はありません。貝が毒化しても、味、臭い等に変わりはなく、一般的な加熱調理では毒が分解されないため毒性は弱くなりません。

貝はどうして毒化するのでしょうか?

貝が毒素を産生するわけではありません。アサリ(図1)、ハマグリ、ホタテガイ(図2)、カキ、ムラサキイガイ(ムール貝)(図3)、ホンビノスガイなどの二枚貝が、エサとして有毒プランクトンを体内に取り込むことによって、毒化します。有毒プランクトンがいない時期や海域では毒化しません。一旦、毒化しても有毒プランクトンがいなくなれば、毒はなくなっていきます。貝毒は主に、二枚貝の消化器官で、動物の肝臓や膵臓の機能を持つ中腸腺という部位に蓄積されます。大きなホタテガイなどは、中腸腺を傷つけないように注意深く取り除けば食中毒を防ぐことができます。しかし、アサリなどの小さな貝は、中腸腺を取り除くことは困難です。


図1 アサリ

図2 ホタテガイ

図3 ムラサキイガイ

検査はどうするの?

日本で問題となっている貝毒は下痢性貝毒と麻痺性貝毒ですが、従来はすべてマウス毒性試験による検査を実施していました。毒性の単位はマウスユニット(MU)という単位で、下痢性貝毒の場合、1MUは体重約20gのマウスに貝の抽出物を投与後、マウス3匹中2匹以上が24時間以内に死亡する毒量を表します。前述のとおり、2016年3月の厚生労働省通知により、下痢性貝毒の規制値は0.05MU/g可食部から0.16mgオカダ酸当量/kg可食部に改正され、試験法もマウス毒性試験法から液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いた機器分析法に変わりました。機器分析法は有機化合物の同定、定量を行う分析法で、化合物ごとに濃度を定量することができます。従来のマウス毒性試験では、オカダ酸群、ペクテノトキシン(PTX)群及びイェッソトキシン(YTX)群を一括で測定対象としていましたが、今回の改正では、下痢原性を持たないPTX群、YTX群が測定対象から除外され、ヒトへの毒性が認められるオカダ酸群について規制値が導入され、機器分析法の対象となりました。
オカダ酸群は、渦鞭毛藻類(うずべんもうそうるい)という植物性プランクトンにより産生される毒素ですが、オカダ酸のほかに類似化合物にジノフィシストキシン群(DTX1、DTX2及びDTX3)が含まれます。それぞれ毒性の強さが異なっているため、オカダ酸以外の貝毒について、オカダ酸に換算します。mgオカダ酸当量/kgとは、検体1kg中に含まれるオカダ酸相当量の数値です。オカダ酸に換算する際に用いるのが、毒性等価係数(TEF)で、1つの主要な毒素の毒性の強さを基準にしたときに、他の類縁物質の毒性の強さを相対的に表した換算係数です。オカダ酸群のTEF値は、オカダ酸が1、DTX1が1、DTX2が0.5となり、オカダ酸、DTX1及びDTX2の定量結果にそれぞれTEF値を乗じてオカダ酸当量値に換算し、その総和が分析結果となります。DTX3は分析途中でDTX1またはDTX2に変換されるためTEFはありません。

貝毒の認証標準物質について

動物を用いる試験法から分析機器を用いる試験法に移行することは動物愛護の観点からも望ましいことですが、分析装置が高価なことや特に標準品の入手が困難なことが障害となりました。
認証標準物質とは認証値や不確かさなどが記載された認証書が添付された標準物質です。従来は海外から貝毒の認証標準物質を入手してきましたが、国内でも国家計量機関である産業総合研究所計量標準総合センターから2016年4月より国産の認証標準物質が安定して入手できるようになりました。これに伴い、2017年3月8日付け生食基発0308第2号及び生食監発0308第9号「「下痢性貝毒(オカダ酸群)の検査について」の一部改正について」により、1981年5月19日付け環乳第37号「下痢性貝毒の検査について」のマウス毒性試験は、2017年4月1日をもって廃止されました。

貝毒による食中毒を防ぐために

下痢性貝毒は1980年代まで食中毒が多発しましたが、その後は市販の貝類による食中毒は発生していません。これは有毒プランクトンの発生状況の監視や貝毒の検査を実施し、市場に下痢性貝毒を持つ貝が出回らないようにしているためです。家庭でできることとして、潮干狩りなどをする際は、出かける場所が安全かどうか自治体のホームページなどで確認をしましょう。

終わりに

神奈川県衛生研究所でも、下痢性貝毒、麻痺性貝毒について、毎年検査を実施しています。2016年度からは、下痢性貝毒については機器分析に移行し、検査を実施しています。今後も県民の皆様の食の安全・安心に役立つよう、日々進歩する検査法に対応できるように調査研究をすすめてまいります。

<参考リンク>

(理化学部 林 孝子)

   
衛研ニュース No.182 平成29年9月発行
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