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衛研ニュース
No.158

生食用ヒラメによるクドア食中毒

2013年9月発行
  刺身のように、加熱せずに食べる生鮮魚介類で新たな寄生虫による食中毒が注目されています。寄生虫とは、他の生体(宿主)の体内に寄生して栄養素を摂取する生物で、寄生虫による食中毒は、寄生虫に汚染された水や食品、魚介類や肉類の生食によって引き起こされます。今回は、新しく見つかったクドア・セプテンプンクタータという寄生虫とその食中毒について紹介します。
 
原因不明の食中毒が増加

生鮮魚介類を食べて嘔吐や下痢を起こす食中毒は、かつて腸炎ビブリオによるものが多くを占めていましたが、近年では、腸炎ビブリオの食中毒は激減しました。一方で、平成15年頃から国内の広い範囲で、食中毒の共通食は生食用の生鮮魚介類(ヒラメの刺身など)であるが病原体の特定ができない、原因不明の食中毒が増加して問題となっていました。このような生鮮魚介類によるいわゆる原因不明の食中毒事例において提供されていた魚種は、ヒラメ、マグロ、エビ、タイ、カンパチ、イカ等の順となっていましたが、6割以上を占めていたヒラメについて詳しい調査が進められました。

写真1 ヒラメ
写真1 ヒラメ

クドア食中毒

平成20年から国立医薬品食品衛生研究所が中心となり原因物質を究明し、近年、ヒラメに寄生する新種として発見されたクドア・セプテンプンクタータが原因であることが明らかとなりました。その後、厚生労働省は平成23年6月17日付けで、生鮮魚介類のうちヒラメを原因とする食中毒に限りクドア食中毒として取り扱うとの通知*1を出しました。
 これまでにヒラメの喫食による食中毒は、患者数が100名を超える大規模な事例も報告されています。クドア食中毒の患者は喫食後数時間で一過性の嘔吐や下痢を示しますが予後は良好であり、このような症状の経過は大きな特徴の一つとされています。
*1:「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例への対応について(平成23年6月17日厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)」


クドア・セプテンプンクタータとは

  クドア・セプテンプンクタータは、ミクソゾア門に属する 粘液胞子虫(ねんえきほうしちゅう) 類の一種です。花びら状の特徴的な形態を示し、6または7つの極のうと呼ばれる構造物を持つ大きさ約10µmの寄生虫です(写真2)。この寄生虫を含む粘液胞子虫は、クラゲなどの刺胞動物に近縁とされており、その多くは魚類の寄生虫として知られています。クドア・セプテンプンクタータの生活環(生物の成長過程とその周期)についてはまだ解明されていませんが、他の粘液胞子虫については生態が明らかとなっているものがあり、発育段階に応じてゴカイやミミズなどの 環形(かんけい) 動物と魚類を交互に宿主とすることが知られています。このときに粘液胞子虫は、魚から魚への感染は起こさず、環形動物から放出された虫体が魚の皮膚や 鰓(えら) から感染するため、クドア・セプテンプンクタータについても魚から魚への水平感染は起こさないと考えられています。
 クドア属を含む粘液胞子虫類は、食中毒以外にも水産的に問題となることがあります。寄生した魚に対し腐敗とは関係なく魚の身を軟化させてしまう、いわゆるジェリーミートを引き起こすクドア属は、クドア・セプテンプンクタータが問題となる以前から知られていました。いったん軟化した魚は商品価値を失うためヒトの口に入ることはほとんどなく、仮に食べた場合でも食中毒にはなりません。これに対しクドア・セプテンプンクタータがヒラメに寄生した場合は、このジェリーミートを起こさず、魚の身も肉眼的に変化がないため喫食されやすくなり、食中毒を引き起こす可能性が高くなります。

写真2 クドア・セプテンプンクタータの胞子
写真2 クドア・セプテンプンクタータの胞子

 
検査について

クドア食中毒では、寄生が疑われるヒラメの検査が重要です。ヒラメの検査は、「Kudoa septempunctata の検査法について(暫定版)」*2に基づいて実施されます。これまでの国内における食中毒事例から、ヒラメの体内に大量に胞子が含まれた場合に下痢や嘔吐などの症状を引き起こしやすいということが確認されています。このため、ヒラメにおけるクドア・セプテンプンクタータを食中毒の原因とする基準は、ヒラメの筋肉1グラムあたりのクドアの胞子数を1.0x106個とし、これを超えることが確認された場合に違反品として取り扱うこととされています。この検査法では、顕微鏡検査および遺伝子検出による定量的な検査が行われ、最終的には顕微鏡を用いた胞子数の計測値の結果により判断されます。
*2:「Kudoa septempunctata の検査法について(暫定版)(平成23年7月11日厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知)」


魚介類の実態調査
 

 神奈川県は、平成24年度からヒラメを含む市販の魚介類について、クドア属粘液胞子虫の実態調査を行っています。当所において、ヒラメ19検体、メジマグロ15検体、カンパチ15検体、マダイ15検体についてクドア属粘液胞子虫の検査を実施し、ヒラメはすべて陰性でしたが、メジマグロ4検体からクドア属粘液胞子虫を検出しました(表1)。この4検体の産地は、国産が1検体、輸入が3検体でした。いずれの検体も、筋肉組織を微量採取して作製した顕微鏡標本において、比較的容易に胞子の集積した部分が観察されました(写真3)。

 検出されたクドア属粘液胞子虫の胞子数は、ヒラメにおけるクドア・セプテンプンクタータの基準である1.0x106個に対して、3検体が基準を上回り、残りの1検体についても基準に近い値を示しました(表2)。これらの陽性検体について詳細な遺伝子検査を行った結果、クドア・セプテンプンクタータではなく、いずれもクドア・ネオチュニー(K. neothunni )でした。

  写真3 メジマグロから検出されたクドア属粘液胞子虫の胞子の集積した部分(上)と検出された胞子(左下、右下)

 

  写真3 メジマグロから検出されたクドア属粘液胞子虫の胞子の集積した部分(上)と検出された胞子(左下、右下)

 

表1 市販魚介類におけるクドア属粘液胞子虫の検出結果
表1 市販魚介類におけるクドア属粘液胞子虫の検出結果

 

 

表2 メジマグロから検出されたクドア属粘液胞子虫の定量および同定結果
表2 メジマグロから検出されたクドア属粘液胞子虫の定量および同定結果

クドア食中毒の予防について
クドア・セプテンプンクタータがヒラメに寄生していても、加熱や冷凍処理により食中毒を予防することができます。冷凍の場合、1日以上の処理により死滅させることができますが、ヒラメの品質を低下させることにもなるため、処理法については今後の検討課題といえます。現時点では、加熱や冷凍処理以外でクドア食中毒を防止するには、生産段階でこの寄生虫がいないヒラメを作るか、寄生したヒラメが流通しないように検査機能を強化することが食中毒予防策になります。
今後に向けて
 クドアが寄生していない安全な魚介類を提供するには、その生態を知る必要がありますが、クドア・セプテンプンクタータをはじめとするクドア属粘液胞子虫の生態については不明な点が多いことから、今後の研究成果が待たれます。一方で、クドア食中毒はヒラメを監視および管理する体制を強化することにより低減させることができると考えられます。
 ヒラメに寄生するクドア属のうち、食中毒を起こすのはクドア・セプテンプンクタータですが、前述のような原因不明の食中毒ではヒラメ以外の魚介類が原因と疑われる事例も報告されています。クドア・セプテンプンクタータ以外の食中毒の調査を進め、検査体制の確立に向けて検査法の検討や冷蔵で流通する魚介類の監視を今後も継続的に行っていく必要があります。

(参考リンク)
 ・ヒラメを介したクドアの一種による食中毒Q&A(農林水産省)

(微生物部 古川 一郎)
No.158 平成25年9月発行  
 


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