神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.154

畜水産物の安全の確保に向けて
食品中に残留する恐れのある医薬品成分について

2013年1月発行
   野菜などの農産物を育てる際に、病害虫防除の目的で農薬を使用することがあるように、豚や牛、鶏などの家畜や養殖の魚類などの畜水産物にも、病気の治療・予防のために医薬品が使われることがあります。しかし、これらの医薬品が家畜等の体内に残留することにより、食品を通して人の健康に影響を与える可能性が心配されています。今回、私たちの食卓に上る食肉や魚などの畜水産物に使用される医薬品とはどのようなものか、懸念される人への健康影響や、使用や残留に対する規制、さらに畜水産物の安全を確保するために衛生研究所が行っている取り組みについて紹介します。
 
畜水産物の生産に用いられる医薬品成分とは
   動物の病気の診断や治療、予防、生育促進などを目的として、主に動物専用に使用する医薬品を「動物用医薬品」といいます。動物用医薬品は、抗菌性物質(抗生物質、合成抗菌剤)、寄生虫駆除剤、ホルモン剤などの化学物質を主成分とする製剤と、ワクチンなどの生物学的製剤があります。
動物用医薬品・飼料添加物の種類と用途
   また、家畜等の飼料には、飼料の品質の低下の防止、有効成分の補給および含有する栄養成分の有効利用の促進を目的として使用が認められている「飼料添加物」があります。飼料添加物にも家畜の発育促進や、飼料に含まれている栄養成分の有効利用を目的として、「動物用医薬品」と同じ成分である抗菌性物質が用いられているものがあります。
 
残留により懸念されるヒトの健康への影響とは
   動物用医薬品や飼料添加物は家畜等を病気から守り、丈夫に育てることにより、畜水産物の生産性を向上させるためには有効なものですが、畜水産物への残留により、人への健康影響が心配されるようになりました。
残留により懸念されるヒトの健康への影響とは
 
☆ 薬剤耐性菌の出現
抗菌性物質は細菌感染症治療にはなくてはならない薬剤です。しかし、これらの薬剤を家畜や養殖魚等に長期間投与し続けることにより、抗菌性物質が効かない病原菌(薬剤耐性菌)が出現してきます。このような薬剤耐性菌が食品を介して人の体内に入ることにより、抗菌性物質の効きにくい感染症の発生が懸念されています。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の治療薬であるバンコマイシンに耐性を持つ腸球菌(VRE)の発生は、家畜の成長促進にバンコマイシンに構造が似ている抗生物質のアボパルシンを使用したことが原因として疑われている事例です。

☆ ホルモン作用の可能性
1970年代半ばから1980年代始めにかけて、プエルトリコやフランスなど海外では、 性的に異常な発育を示す乳幼児がいることが報告されました。 この原因として、肉量を増やしたり、肉質をよくする目的で使用する、肥育ホルモン剤である合成女性ホルモンが残留した食肉が疑われました。
肥育ホルモン剤には動物の体内に元々存在するホルモンを製剤とした天然型と、化学的に合成された合成型があります。日本でも、1960年代から1990年代まで、天然型肥育ホルモン剤が動物用医薬品として使用されていました。現在日本では、肥育ホルモン剤の製造・輸入は中止されており、承認されているホルモン剤は、家畜の繁殖障害の治療や人工授精時期の調節などの目的に使用されるものだけとなっています。

☆ 不正使用による中毒事例  
気管支拡張、尿失禁防止を目的として人の医薬品としても使用されているβ2作動薬のクレンブテロールは、動物用医薬品としては気管支拡張作用による馬用の呼吸器疾患の治療薬や、牛用の子宮弛緩薬として国内外で承認されています。しかし海外では、承認された目的外の用途である肉の赤身部分の増加剤として家畜に使用され、その肉や内臓を摂取した人が、頻脈、頭痛、めまい等といった症状の中毒を起こした事例が報告されています。日本では、クレンブテロールは獣医師の管理の下で動物用医薬品として使用されており、定められた使用基準の範囲内で適切に使用される限りにおいては、このような事例が発生する可能性はまずありません。

☆ 過敏症誘発によるアレルギー発現 
抗生物質のペニシリン等は、アレルギー反応を誘発する薬剤であることが知られています。このような薬剤の食品への残留については、アレルギー反応を考慮した上で安全性の評価を行い、残留基準値が定められています。

 
食品への残留にはどのような規制があるのでしょうか
   抗生物質及び合成抗菌剤の食品への残留については、昭和22年に制定された食品衛生法の食品、添加物等の規格基準で、「食品は、抗生物質を含有してはならない。」「食肉、食鳥卵及び魚介類は抗生物質のほか、化学的合成品たる抗菌性物質を含有してはならない。」と規制されています。 その後、平成15年の食品衛生法改正によって、動物用医薬品の規制は残留農薬等とともにポジティブリスト制度注)(平成18年5月29日施行)に改められ、これまで規制のなかった薬剤にまで規制が拡大されました。 
また国内では、動物用医薬品や飼料添加物の製造や販売、使用等については薬事法、飼料安全法等によって使用できる家畜等の種類や目的、薬剤の使用量、休薬期間等が定められていて、適切に使用すれば食品への残留が生じないような仕組みが作られています。

   
注) ポジティブリスト制度:農薬・動物用医薬品・飼料添加物(以下農薬等という)を対象に、その成分が一定 基準を超えて残留する農作物・食品の、製造・輸入・販売を原則禁止する制度。約800の農薬等に基準値が設定され、この基準値を満たす農作物・食品だけが流通できる。基準値がまだ設定されていない農薬等には0.01ppm以下という一律基準が適用される。  
   
衛生研究所の取り組み
 
   衛生研究所では、神奈川県食品衛生監視指導計画に基づき、輸入食品を含む県内に流通している食品の動物用医薬品検査を実施しています。平成20〜23年度の検査実施状況は以下のとおりで、養殖のエビ、ブリなどの魚介類、牛肉、豚肉等の食肉、鶏卵、牛乳、はちみつに加え、うなぎの蒲焼などの魚介類加工品、冷凍食品のエビ加工品、豚肉加工品等について検査を実施しました(表)。  
表 動物用医薬品検査実施状況
 
   平成21年度に輸入鶏肉からナイカルバジン(寄生虫駆除剤)、平成22年度に輸入豚肉加工品からスルファジミジン(合成抗菌剤)が検出されましたが、いずれも残留基準値以内でした。また、平成23年度に輸入エビから検出されてはならないフラゾリドン(合成抗菌剤)が検出されました。他の食品は基準値を超えるものはありませんでした。
   基準を超えた食品については、当該食品営業者を所管する保健福祉事務所等が必要に応じ、措置を講じます。
   ポジティブリスト制度の導入により、動物用医薬品等の検査は、検査対象薬剤が約40項目から250項目以上に増大し、さらにきわめて低濃度についての測定値が求められており、高度な測定技術や専門性が必要となっています。当所では、このような状況に遅滞なく対応するため、今後もより迅速で信頼性の高い分析法の開発や検査体制を確立し、食品の安全性確保に向けて努めてまいります。
 

(理化学部 甲斐 茂美)

No.154 平成25年1月発行  
 


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