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衛研ニュース
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2009年1月発行 神奈川県衛生研究所
水環境中に放出される医薬品類
−新たな水環境汚染問題−
No.128

   最近、「医薬品類によって河川水が汚染されている」という話題が新聞紙上等で取り上げられるようになってきました。私たちの身近な水環境で何が起きているのでしょうか? 今回は新たな水環境汚染問題としてクローズアップされている「医薬品類による水環境汚染」を紹介します。

私たちの生活の中にある医薬品類

   ご家庭の薬箱を開けてみると、鎮痛解熱剤、胃腸薬、消毒薬、かゆみ止め、湿布薬等の薬が常備されているのではないでしょうか。夏の時期に外出するときには虫除けを塗る方も多いのではないかと思います。「薬用」と表示のあるハンドソープやボディソープも数多く売られています。このような「医薬品」「医薬部外品」の他に、シャンプーやリンス、化粧品等(パーソナルケア製品と呼ばれます)の中にも防腐や酸化防止等を目的として類似した成分が含まれています。家庭内ではありませんが、畜産や漁業においても病気の予防や治療のために多くの医薬品が使われています。
  服用された医薬品は全てが代謝されるわけではなく、薬としての効果を保持したまま体外へ排泄されることもあります。塗り薬や貼り薬、化粧品等は手洗い、シャワー、入浴により洗い落とされます。こうして下水を通じて医薬品類が水環境中へと放出されます(図1)。
  医薬品類が河川水中に放出された場合、その河川水を水道水に用いていれば、知らず知らずのうちに水道水とともに医薬品類を摂取してしまうことが考えられます。また、医薬品類が環境中に蔓延することによって、薬剤が効かない薬剤耐性菌が出現することも懸念されています。医薬品類による河川水の汚染問題は 1980年代に欧米諸国における調査により注目されはじめ、わが国においても2000年代より調査が始められています。

図1 医薬品類の水環境中の移動
県内の河川水中にはどの程度医薬品類が含まれているのでしょうか?
  神奈川県衛生研究所では 2004年より県内の主要な水道水源となっている水系の河川水について、そこに含まれる医薬品類の調査を行っています。出荷量の多い医薬品、これまでに国内の河川水中から検出されたことのある物質、家庭内で多く使用される製品中に含まれる物質などを対象として、現在は表1に示したような41種類の医薬品類について調査を行っています。16ヶ所の河川水と1ヶ所の水道水について医薬品類の分析を行ったところ、17種類の化合物が検出されました(表1中の色づけした化合物)。検出された濃度は 0.01μg/L 〜約 1μg/L (※) の範囲でした。この数値は国内における他の実態調査と比較すると同程度の濃度でした。
表1 分析を行った医薬品類
  また、浄水場の取水施設近くの河川水中や、水道水中からは医薬品類は検出されませんでした。
私たちへの健康の影響は?
   水中の医薬品類は私たちの健康に影響を及ぼすのでしょうか? 現在検出されている医薬品類の濃度レベルは一般的に治療で使用される医薬品の量に比較するとはるかに低く、直ちに健康に影響を及ぼす濃度ではないと考えられます。しかし、長期にわたって複数の低濃度の医薬品類を摂取し続けた場合の影響や、医薬品類が下水処理場や浄水場で塩素処理された結果生成する物質の毒性などに関しては未解明の部分が多く残されています。
  また、以前は病院等でしか見られなかった薬剤耐性菌が最近は環境中でも発見されるようになっており、その原因の一つとして環境中に放出された医薬品類の影響が指摘されています。
  医薬品類による環境問題の難しいところは、医薬品類の多くが私たちの生命や健康を維持する必要のために使用されており、環境汚染の原因であるからという理由でただちに使用を中止することができない点にあります。また、河川水や水道水中の医薬品類の濃度を規制する環境基準や水道水質基準は現在のところ設定されていません。医薬品類を使用するメリット、汚染問題というデメリットを天秤にかけつつ、汚染を低減化する道を考えていかなければならないのかもしれません。
  こうしたなかで、誤って使用したり乱用されることを防止することなども考慮し、余ってしまった薬が不適切に廃棄されて汚染を引き起こさないよう、処方された薬の余ったものについては、薬局で回収する自主的な取り組みも行われるようになっています。
   医薬品類による水環境汚染は比較的新しく、多くがまだ解明されていない問題です。このため、国内外の多くの研究者が汚染の監視、下水処理場や浄水場の処理における医薬品類の挙動やそれらの除去方法に関する研究を行っています。当研究所でも引き続き水環境中の医薬品類の監視、処理方法に関しての研究を行っていく予定です。
 
理化学部 生活化学・放射能グループ  上村 仁
 
   
衛研ニュース No.128 2009年1月発行
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