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2008年6月発行 神奈川県衛生研究所
トランス脂肪酸−油脂の新しい問題?− No.126

   最近、トランス脂肪酸という言葉を目にするようになりました。食品の安全性に関心が高まっている現在、トランス脂肪酸についても様々な動きがあります。今回はその概要を紹介します。

なぜ問題になっているのでしょうか?

  トランス脂肪酸は、 LDLコレステロール(悪玉)を増加させ、HDLコレステロール(善玉)を減少させる働きがあり、多量の摂取で動脈硬化等による虚血性心疾患のリスクを高めると報告され、注目されるようになりました。米国等では脂肪の摂取量が多いため、その一部であるトランス脂肪酸も同時に多量に摂取してしまい、その健康影響が問題視されています。これまで、動物性脂肪のとりすぎは人の健康に悪影響を及ぼし、植物性油脂は良いといわれてきました。しかし、植物油を原料とする マーガリンやショートニングには、その製造工程で生成されたトランス脂肪酸が含まれています。
   欧米等ではトランス脂肪酸が規制されている国もありますが、日本ではこれまでの調査でトランス脂肪酸の摂取量が少なく、規制は行われていません。

トランス脂肪酸とは何でしょう?

  脂質は三大栄養素の一つで、重要なエネルギー源です。脂質は三つに分類され(図1)、油脂はその中の単純脂質であり、グリセリンに脂肪酸が結合したものです(図2)。油脂は、多種類の脂肪酸から構成され 、脂肪酸の種類により性質が変化します。常温で液体のものを油、固体のものを脂といいます。脂肪酸には飽和と不飽和があり、不飽和にシス脂肪酸とトランス脂肪酸があります。
   トランス脂肪酸はトランス型二重結合という構造を持つグループで、いろいろな種類があります。トランス脂肪酸は、他の脂肪酸と同様に消化・吸収され、特に蓄積しやすいということはなく、最終的にエネルギーになりますが、過剰に摂取すると健康影響のリスクは高まります。
図1 脂質の分類
図2 油脂の構造
ミニ知識  脂肪酸は、炭素、水素、酸素からなり、2〜22個の炭素原子が鎖状につながり、一端がカルボキシル基になっているものです。炭素と炭素が全て一重結合の場合が飽和脂肪酸、二重結合を一つ以上持つものが不飽和脂肪酸と呼ばれます。不飽和脂肪酸は、二重結合の炭素に付く水素の向きが同じ向きになっているシス型と、互い違いになっているトランス型があります。
図3 脂肪酸の種類と代表例

 

トランス脂肪酸はどのようにしてできるのでしょう

  トランス脂肪酸は、油脂の加工や食品を調理する過程で生成します。これ以外にも、天然に存在することが知られています。
   マーガリンやショートニングを製造する際に、液体の植物油を加工する水素添加という工程で、不飽和のシス脂肪酸が飽和脂肪酸に変化し、固体になります。水素添加された油脂を硬化油と呼び、植物油にこの硬化油を配合して、マーガリンやショートニングを作ります。この水素添加反応の副生成物としてトランス脂肪酸が生成されます。植物油を精製する脱臭工程では、高温、高真空下で水蒸気を吹き込みます。この過程でシス脂肪酸の一部がトランス脂肪酸に変化します。また、油を高温で加熱する調理過程でも、熱により微量のトランス脂肪酸が生成するといわれています。
  さらに、天然に生成される場合があります。牛等の反すう動物の胃の中のバクテリアは、シス型の不飽和脂肪酸をトランス型に変える特殊な酵素を持ち、バクセン酸等のトランス脂肪酸を産生するため、牛肉や牛乳にはトランス脂肪酸が含まれています。
図4 油脂の加工例
   

国際機関の目標値

 
  食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO(世界保健機関)/FAO(国際連合食糧農業機関)合同専門家会合の報告書(2003年)では、一日の総エネルギー摂取量に対する総脂肪・飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸等からの摂取エネルギーの比率の目標が設定されています。その中で、トランス脂肪酸は、心血管系を健康に保つため、食事からの摂取を低く抑えるべきであり、最大でも一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満を目標値としています。
   

日本における推定摂取量の調査について

 
  食品からのトランス脂肪酸の摂取量は、食品に含まれるトランス脂肪酸を分析して含有量を求めて推定します。分析には、食品からメタノール、クロロホルム等の有機溶媒で油脂を抽出し、その構成成分の脂肪酸をメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーで測定する方法が用いられています。
  平成18年度、食品安全委員会では国内で流通している食品386検体中のトランス脂肪酸含有量を調査しました(表1)。国民健康・栄養調査における食品別摂取量から、日本人一日当たりのトランス脂肪酸摂取量を推計(積み上げ方式)したところ、平均0.7g(摂取エネルギー換算では約0.3%)でした。また、食用加工油脂の国内の生産量から推計した一日当たりのトランス脂肪酸摂取量は、平均1.3g(同約0.6%)でした。
  平成19年度、国立医薬品食品衛生研究所は、全国10カ所で食品を購入し、食べる状態に加工・調理して調製した試料を分析し、トランス脂肪酸の全地域を平均した場合の1日平均摂取量は、0.71gと推定されました(平成20年5月、日本食品衛生学会)。
  これまでの調査結果から、我が国における平均的なトランス脂肪酸摂取量は、比較的少ない傾向が示されました。
表1 国内に流通している食品のトランス脂肪酸含有量

諸外国の対応

 

  デンマークでは、 2004年1月1日から油脂中のトランス脂肪酸の含有量を2%までと制限しました。米国では、2006年1月から加工食品の栄養成分表示において、飽和脂肪酸、コレステロールに加えてトランス脂肪酸量の表示を義務付けています。2005年版米国人のための食事指針に関する諮問委員会報告では、トランス脂肪酸の摂取量は一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とするように勧告されています。ニューヨーク市は、2008年7月1日までに、市内の飲食店や売店で提供される食品についてショートニング、マーガリン等に由来するトランス脂肪酸の制限や表示を、2008年7月1日までに段階的に実施する規制を制定しました。カナダでは、原則として2005年12月12日からの栄養成分の表示義務化の中でトランス脂肪酸も表示対象としています。
  アジアでは、韓国は、 2007年12月から、台湾は2008年1月1日以降トランス脂肪酸含有量の表示が義務付けられました。

 

トランス脂肪酸のリスクを避けるには

  日本では、トランス脂肪酸の規制は行われていませんが、厚生労働省、農林水産省、食品安全委員会で含有量等の調査を行っています。食品業界では、トランス脂肪酸の問題への対応が進み、ホームページ等で自社製品のトランス脂肪酸の含有量のデータを公表する企業が増えてきました。また、トランス脂肪酸含有量の少ない商品の開発もされていますので、そのような食品を選択することもできます。
   油脂はエネルギー源となり、細胞膜を構成する成分であり、脂溶性ビタミンを吸収するための大切な栄養素です。しかし、トランス脂肪酸だけではなく、飽和脂肪酸やコレステロールの過剰摂取は、心疾患のリスクを高めます。油脂全体の摂取について注意し、動物、植物、魚由来の油脂をバランス良くとることが大切です。

 

理化学部 食品化学グループ 岸 弘子

   挿絵
衛研ニュース No.126 平成20年6月発行
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