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衛研ニュースNo.109

2005年3月発行

食品媒介性のリステリア症について

           

寺西 大


 
 リステリア症はListeria monocytogenes(リステリア モノサイトゲネス、一般的にはリステリア菌)とよばれる細菌による感染症です。この菌は、自然界に広く分布し、土壌や河川水、家畜などの動物、魚介類、昆虫などから見つかっています。また、0℃付近の低温でも増殖でき、10%の食塩濃度にも耐えて増殖することができます。ヒトと動物に病原性を有していますが、健康成人に発症することはまれで、新生児、老齢者、あるいは基礎体力・免疫力の落ちたヒトや妊婦に発症することが多いと報告されています。感染初期には、発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐等インフルエンザに似た症状を呈します。重症化すると髄膜炎及び敗血症を呈し、妊婦が感染した場合には、流・死産を起こすことがあります。汚染された食品の摂食による経口感染が主な感染経路で食中毒を起こしますが、他の経口感染する食中毒菌とは違い、通常は下痢や腹痛などの胃腸炎症状を示しません。潜伏期間は通常24〜72時間といわれていますが、散発事例ではより長い場合もあるとされています。また、特徴的な症状が無いため、リステリア症と診断されるまでに1週間以上かかり、集団発生を除いて感染経路を特定することは困難な状況です。治療にはアンピシリン等のペニシリン系の抗生物質が有効です。

リステリア症の発生頻度
 平成15年(2003年)5月の国会において食品媒介性のリステリア症の問題について質問が出ました。「我が国ではまだ食品媒介性のリステリア症が確認されていないため、欧米のような緊急性を実感できない。食品汚染実態からいえば同様の事例がいつ発生しても不思議ではないが、日本での発症例がないとして厚生労働省も本気で対策をとっていない。リステリア症の危険性はどの程度で、どのような対策をとったらよいのか。」というものです。参考人として招致された日本食品衛生協会の丸山 務先生は「確かに、日本では食品媒介性のリステリア症が確認されたものはない。これはなぜかというと、一つは、臨床医が、何か事故が起きたときに、食べ物が何かというところまで遡って聞くということがそんなに徹底してはいないのではないか。臨床医にこういう点まで調べてもらえば、そういう実態が少しは明らかになる。食品の汚染にしても諸外国と同じレベルであり、それがなぜ起きないのか、大変不思議に思っている。」と答弁されました。このことは実際の食品検査に携わる我々に共通する疑問でもあります。また、食品媒介のものは言うに及ばずリステリア症自体の発生数も年間数例〜数十例の散発例が認められるだけで、非常に少ないといわれています。
 時間は少し遡りますが、平成13年度より厚生労働省は、「食品由来のリステリア菌の健康被害に関する研究」という研究班を立ち上げて、国内におけるリステリア症の実態、病原株の指標となるマーカー遺伝子の検索、食品の汚染実態等々について広範な調査研究を行っています。その中で、国内でどの程度の患者が発生しているかを把握する目的で、全国の病床数100床以上の救急告示病院2,258施設に対してアンケート調査によりサーベイランスを行い、このうち773施設から回答を得ました。感染経路について確認できたものはありませんでしたが、リステリア症を経験した施設は194施設でした。この中で最も現状の値を反映していると思われる1995年以降の数値をもとに国内におけるリステリア症の推定発生数と発症率を全国の全病床数をもとに計算し、1年間の推定発生数は83件、人口100万人あたりの発症率は0.65と報告されています。100万人あたりの発症率はリステリア症発生の多い米国の3.7〜5.8(1994〜1997年)、フランスの5.4(1997年)と比べると低い値ですが、欧米でもイギリスの1.6〜2.0(1990年代)、オランダの0.7(1991〜1995年)に比べて特に低いとは考えられず、今までいわれてきたように、日本におけるリステリア症発生頻度が欧米に比べ極端に低いとはいえないことが分かりました。発生がないのではなく、知られていなかったのです。

日本で初めて確認された食品媒介性リステリア症
 平成13年(2001年)3月に北海道根室市でウオッシュタイプのナチュラルチーズを原因食品とする集団事例が発生しました。当初、チーズを喫食し、発熱・頭痛の症状を示した患者は2名で、リステリア菌がチーズという食品を介して患者に摂取されたという事実は確認されましたが、他の食中毒細菌や類似の症状を示す他の感染症に関する検査がされておらず、患者の症状がリステリアの感染によるものと確定できないという理由で、当時の検討会では行政的にリステリア症であるという結論には至りませんでした。また、患者血清が採取されておらず、抗体価の変動を調査することもできませんでした。当時、国内におけるリステリア症の発生状況は充分に把握されておらず、上述したように非常にまれな感染症と考えられており、その診断基準も整備されておらず、このような結論に至ったと思われます。その一方、発症までに至る潜伏時間や臨床症状が海外で発生した集団事例とほぼ一致すること等から、検討会の委員のなかにはリステリア症とすべきとの意見もあり、この事例で認められた症状をリステリア感染の初期症状でないと否定することもできませんでした。リステリア菌に汚染されたチーズを喫食したことは確認されており、発症原因がリステリア菌によるものか確認の必要がありました。そこで厚生労働省研究班はこの事例の情報収集と分離菌株の分子疫学的性状や病原性に対する検討を加えました。その結果、追跡調査で、この事例では、喫食者86名中38名(44%)が発症し、有症者の便の調査では32名中19名(59%)からリステリア菌が分離されました。原因食品のチーズの汚染菌量は1gあたり10個認められ、摂取菌量はかなり多いと推定されました。
 チーズ由来株と患者由来株のパルスフィールドゲル電気泳動の結果は個々の株間には小さな差異は認められるものの近縁性は高く、リボタイピングの解析ではすべての株でリボパターン(ゲル泳動像)が一致しました。従って、チーズと患者由来の菌株は同一由来であると考えられました。さらに、記録されていた臨床症状を国外における食品媒介性リステリア症の臨床症状との比較検討を行い、類似度が非常に高いと判定され、平成16年(2004年)9月に本事例が食品媒介性のリステリア症とすることが妥当と判断されました。実に、食品媒介性リステリア症の集団発生と確認されるまで3年半もの時間がかかりました。
 本県でも市場に流通しているナチュラルチーズや生ハムからリステリア菌を検出しており、食品媒介性リステリア症の集団発生が懸念されるので、検査体制を強化し、汚染食品の流通を未然に防止し、安全性を確保することが重要と考えています。


(微生物部)



平成17年度の経常研究課題一覧

   経常研究は、公衆衛生向上のため保健衛生分野において経常的に行っている技術的な基礎研究、応用研究および開発研究です。検査を実施する上で生じた問題や事業本課が行政を進める上で生じた科学技術上の課題等の解決に向けて取り組むものです。平成 17年度は、下記の25課題を計画しています。

No グループ・(年度)  研究課題名
1 衛生情報課(17) 公衆衛生における統計学的手法の検討
2 呼吸器系細菌G(15〜17) レジオネラ属菌の迅速検出法及び増菌培養法の検討
3 呼吸器系細菌G(17〜18) 肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性化に関する研究
4 腸管系細菌G(17〜19)  海浜環境における腸管系病原細菌の分布に関する研究
5 腸管系細菌G(17〜19) 病原大腸菌(EPEC)の病原性関連遺伝子を中心とした検索法に関する検討
6 食品細菌系G(17〜18) ナチュラルチーズからリステリア菌を検出するためのPCR法の検討
7 食品細菌系G(17〜18) 清涼飲料水原材料(茶葉)からの耐熱性カビの分離方法の検討と分離カビの熱抵抗性に関する研究
8 食品細菌系G(17〜18) 市販鶏肉におけるCampylobacter jejuni/coli の汚染実態および分子疫学的解析
9 エイズ・インフルエンザウイルスG
(17〜19)
呼吸器疾患関連ウイルスの検出法に関する研究
−トリインフルエンザおよびヒトメタニューモウイルスの検出法の検討と浸淫状況調査−
10 エイズ・インフルエンザウイルスG
(16〜18)
HIVスクリーニング検査に関する研究 
−新しい検査法の問題点と対応策の検討−
11 リケッチア・下痢症ウイルスG
(17〜18)
食中毒患者からの原因ウイルスの解明
−食中毒と感染症! ノロウイルスの動向を探る−
12 食品汚染物質G (15〜17) 農産物中の抗生物質の分析法の開発及び残留調査
13 食品汚染物質G (15〜17) 農産物中のイミダゾリノン系農薬の残留調査
14 食品汚染物質G (16〜18) 畜水産物中の動物用医薬品のLC/MS/MSによる確認法の確立
15 食品成分G(17〜19) 食品添加物規制の国際標準化に対応する分析法の検討
16 食品成分G(16〜18) 遺伝子組換え食品検出に関する基礎的検討
17 薬事毒性G(17〜19) サプリメントによる微量金属の吸収阻害に関する検討
18 薬事毒性G(17〜18) 脱法ドラッグ(いわゆるケミカルドラッグ成分)の化学分析に関するデータベースの構築
19 薬事毒性G(16〜18) フグ魚種DNA鑑別法の検討
20 薬事毒性G(17〜18) 健康食品中のフェノールフタレイン類の分析法に関する研究
21 薬事毒性G(16〜18) 健康食品に混入・添加された医薬品の系統分析方法の基礎研究
22 生活化学G(17〜18) 水道原水の塩素処理過程における農薬の分解に関する研究
23 生活化学G(17〜18) ミネラルウォーター中の全有機炭素(TOC)及び有害金属の分析方法の検討
24 生活化学G(16〜18) 医薬品による飲料水汚染に関する研究
25 放射能G(14〜17) 食材から摂取する微量元素濃度に関する研究

                 

施設公開のご案内

 

テーマ : 知っていますか? 身近な健康リスク

 

               日 時:平成17年4月22日(金)10:00〜16:00

        

               場 所:神奈川県衛生研究所  大・小会議室

                     茅ヶ崎市下町屋1-3-1 

                       TEL 0467-83-4400

 

    

 内 容 : 施設公開・パネル展示(10:00〜16:00)

           ミニ講座(13:00〜15:10)

            1. 冬の感染性胃腸炎・食中毒  主役はノロウイルス

            2. 食べたい? 食べたくない? 遺伝子組換え食品

                 −遺伝子組替え食品の現状と検査−

            3.  危ない・・・こんなに危険な“脱法ドラッグ” !!  


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