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短報

切り身魚からのヒスタミン生成菌の検出

伊達佳美,古川一郎,相川勝弘,浅井良夫,尾上洋一

Incidence of histamine-producing bacteria in cut fish

 

Yoshimi DATE Ichiro FURUKAWAKatsuhiro AIKAWAYoshio ASAI and Yoichi ONOUE

 

神奈川県衛生研究所 微生物部

253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1

 

 

 

 

 

はじめに

アレルギー様食中毒は,ヒスタミンが大量に蓄積された食品を摂食し,頭痛,じんま疹,発熱などアレルギー様の症状を呈することで発生する.原因食品の多くは,ヒスタミンの前駆物質である遊離ヒスチジンを多く含有するマグロやサバなどの赤身魚であり,遊離ヒスチジンは,ヒスチジン脱炭酸酵素を有する細菌(ヒスタミン生成菌)によってヒスタミンに変化し,蓄積される1).蓄積されたヒスタミンは,加熱により分解されず,加熱調理済みの魚でもアレルギー様食中毒は発生する.

魚介類を摂食する機会の多い我が国では,ヒスタミンを原因とする食中毒が諸外国と比較して多く発生していると言われながら,ヒスタミンに関する法規制は未だない.国内のアレルギー様食中毒事例は毎年数例〜数十例発生しており,平成18年に発生したアレルギー様食中毒の原因食品のうち,多くはカジキやマグロなど大型の赤身魚の切り身であった2).白身魚は遊離ヒスチジン量が少ないためアレルギー様食中毒の原因食品としての報告はほとんどみられないが,大型の白身魚であるアブラソコムツは,アレルギー様食中毒の原因食品として報告されている3).冷蔵技術が発達した現在,魚介類は水揚げから販売まで低温で流通していると考えられるが,解体や解凍に時間のかかる大型魚は切り身になるまでの工程が多く,ヒスタミン生成菌に汚染する機会が多いと推測される.また,ヒスタミン生成菌は低温で増殖可能な菌種も存在するため,低温貯蔵の際にもヒスタミンが蓄積されている可能性がある.   

ヒスタミン生成菌として,腸内細菌科および海洋由来のビブリオ科の菌種がいくつか知られているが,ヒスタミン生成菌の検出方法は煩雑で時間を要するため,食中毒時でも原因菌が検出されない場合が多い.そこで,アレルギー様食中毒の原因究明の一助として,ヒスタミン生成菌の検出方法の検討ならびに県内に流通する大型魚の切り身におけるヒスタミン生成菌の汚染状況の把握を目的として,大型魚の切り身のヒスタミン量測定,ヒスタミン生成菌の菌数測定および分離菌の同定を行ったので報告する.

材料および方法

1.調査対象

平成195月から平成202月に神奈川県下の小売店から購入した大型魚の切り身60検体を対象とし,赤身魚35検体(カジキ22,マグロ10,サワラ2,ブリ1)白身魚25検体(カレイ9,ギンダラ7,ムツ5,サケ3,タラ1)について調査した.

2.切り身魚からのヒスタミン生成菌の分離と菌数測定

ヒスタミン生成菌の分離はTakahashiらの報告4)に準拠した.ヒスタミン生成菌の分離のため,選択増菌培地にPoly PeptoneDifco 10gYeast extractBBL 3gD()-Glucose(和光純薬)5gL-histidineHClH2O(和光純薬)4.57gを人工海水500mlおよび蒸留水500mlで溶解後pH5.0に調整したHistidine Brothを使用し,MPN3本法で菌数測定を行った.すなわち,検体10gHistidine Broth90ml加え,ストマッカーで60秒間ホモジナイズしたもの(試料原液)を3本の滅菌中試験管に10mlずつ分注した.さらに,予め10mlHistidine Brothが入った試験管に試料原液を1ml0.1mlそれぞれ3本ずつ接種し,30℃で18時間培養した.各培養試験管についてペーパークロマトグラフィーで,ヒスタミン生成が確認された試験管を陽性とし,その陽性本数からMPN値を求めて算出した.ヒスタミン生成が確認された試験管の培養液を,Niven Agar5 に1白金耳塗抹し,30℃,18時間培養した.Niven Agarに発育し,集落の周辺が紫色に変化したと思われる菌株を1平板あたり510株程度釣菌し,再度Niven Agarに移植し, 30℃,18時間培養後,ヒスチジンを分解し集落周辺の紫色が明瞭になった株についてヒスタミン生成能の確認を行った.

3.ヒスタミン生成能の確認

分離した菌株を再度Histidine Brothに接種し,30℃,18時間培養後,ペーパークロマトグラフィーでヒスタミン陽性を確認できた菌株をヒスタミン生成菌とした.またヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を標的としたPCRを実施した4)

4.ヒスタミン生成菌の同定

ヒスタミン生成能が確認された菌株について,形態学的検査およびチトクロームオキシダーゼ,TSI培地,SIM培地,リシン脱炭酸培地,VP培地における生化学的性状検査を実施した.チトクロームオキシダーゼ陽性菌については海洋由来の細菌を疑い,好塩性試験(塩化ナトリウム濃度0および3%での発育)を行った.形態学的検査でグラム陰性桿菌であることを確認し, 生化学的性状検査の結果,同一検体に同一性状を示す菌株が多数あった場合は,代表株を同定に供した.同定キットはApi20EBio Merieux)を用いた. Api20E Klebsiella oxytoca またはK. pneumoniaeと同定されたものについては,Raoultella planticolaまたはR. ornithinolytica の可能性があるため, Api32EBio Merieux)を用いて再度同定を行った.また,低温での発育をみるため, Histidine Broth4℃,7日間の培養を行った.

5.魚肉のヒスタミン量の測定

魚肉中に含まれるヒスタミンの定量は,チェックカラーHistamine(キッコーマン)を用いた.

結果

1に魚種別のヒスタミン生成菌の検出状況と菌数の分布を示した.ヒスタミン生成菌は,60検体中23検体(38.3%)から分離され,赤身魚35検体中18検体(51.4%),白身魚25検体中5検体(20.0%)であった.ヒスタミン生成菌が検出された魚種は,赤身魚ではカジキ22検体中14検体(63.6%),マグロ10検体中4検体(40.0%),白身魚ではサケ3検体中2検体(66.7%),ムツ5検体中2検体(40.0%),ギンダラ7検体中1検体(14.3%)であった.

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ヒスタミン生成菌が検出された23検体について,菌数をMPN法により算出した結果,菌数が30102/100g9検体,  >102103/100g6検体,>103104/100g5検体,>10/100g3検体であった.>103/100g検出された8検体中6検体はカジキ,2検体はマグロであり,白身魚は全て103/100g 以下であった.

分離菌種別検出状況を表2に示した.ヒスタミン生成菌が分離された23検体中 19検体から腸内細菌科9菌種,5検体からビブリオ科1菌種が分離された.分離検体数が最も多かった菌種はMorganella morganiiで,分離された12検体中カジキは9検体,マグロ,ギンダラ,ムツ各1検体であった.次いでR.planticola8検体から分離され,カジキ3検体,マグロ2検体,ギンダラ1検体およびムツ2検体であった.ビブリオ科に属するPhotobacterium damselaeは,カジキ3検体とマグロ2検体から分離された.また,10検体からは複数の菌種が分離された.

 4℃,7日間の低温発育性検査において発育が認められた菌株はR.planticolaR.ornithinolyticaSerratia liquefaciensであった.

魚肉のヒスタミン量測定の結果,60検体中1検体からヒスタミン142ppm検出された.この検体はカジキで,ヒスタミン生成菌数は>10/100g(実際の計算値は1.1×10/100g以上)であり,腸内細菌科であるEnterobacter aerogenesが分離された.これ以外の検体は,全て検出限界(20ppm)未満であった.

今回,分離菌のヒスタミン生成能の確認に,ペーパークロマトグラフィーとPCR法を併用したが,結果は全て一致した.

考察

今回の調査で,切り身魚の38.3%からヒスタミン生成菌を分離したが,ヒスタミン生成菌の検出率,菌数ともに,ヒスチジン含有量の高い赤身魚が白身魚よりも高い傾向を示した.赤身魚のうち,カジキやマグロ以外は検体数が少ないため不明であるが,白身魚では,検体数の多いカレイからはヒスタミン生成菌は検出されず,サケやムツは検体数が少ないが検出率が高かったことなど,魚種によって検出されるヒスタミン生成菌の菌種や菌数が異なる傾向がみられた.その理由として,水揚げされる産地(海域)が推測されたが,水揚げ後の輸送方法・加工・流通ルート・温度管理状況によっても汚染率や検出菌種が異なることが考えられる.魚種により検体数にバラツキがあるため,比較は出来ないが,カジキからM. morganiiを主としたヒスタミン生成菌が高率に分離され,また,ヒスタミン生成菌数が>10/100g検出された検体はカジキのみであったことから,カジキのヒスタミン生成菌の汚染率および汚染菌数は他の魚種より高い傾向にあると推察された.

ヒスタミンが142ppm検出されたカジキのヒスタミン生成菌数は1.1×10/100g以上で,分離されたE. aerogenesは強いヒスタミン生成活性を持つ可能性があること1)から,この検体は,水揚げ後に何らかの不適切な取り扱いがあり,保管条件によってはヒスタミン量が増加し,食中毒発生の危険性があったと思われた.一般的には,ヒスタミン量が100mg/100g1000ppm)以上の食品で発症するとされているが,食中毒事例から発症者のヒスタミン摂取量を計算した例では大人一人あたり22370mgと報告されている6).我が国では,食品中のヒスタミンに対する法的な規制が定められていないが,欧米では水産食品のヒスタミン量について規制値が設けられており,米国食品薬品局(FDA)では,魚介類については5mg/100g50ppm)で注意喚起レベルの規制値が定められている.カジキを原因とするアレルギー様食中毒は,毎年国内で発生しており,カジキがヒスタミン生成菌による汚染率が高い原因について,食中毒防止に向けたさらなる調査が必要であると思われた.

腸内細菌科以外のヒスタミン生成菌として分離されたP.damselaeは,海水中に生息しており,分離されたカジキやマグロについては水揚げ時に汚染されていた可能性がある.P.damselaeは,今回分離率の高かったM.morganiiR.planticolaなどとともに強いヒスタミン生成活性をもつと報告されており1,ヒスチジンを多く含むカジキやマグロは,水揚げ時から一貫した衛生管理が必要である.また,切り身魚から低温で発育可能なヒスタミン生成菌が検出されたことで,冷蔵での取扱いでもヒスタミンが蓄積される可能性があることを,消費者を含めた取扱者に周知させることが食中毒を防止するために必要であると思われる.

鮮魚中のヒスタミン生成菌数は,全生菌数の0.0110%程度であり1),今回の調査でも優勢菌の中からヒスタミン生成菌を分離することは,非常に煩雑で時間を要した.ヒスタミン生成菌が複数菌種分離されることは希ではなく,最終的な分離,同定は必要だが,分離されたヒスタミン生成菌のヒスタミン産生性と,ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を標的としたPCRの結果が一致したことから,検査の効率化,迅速化のためには検査の早い段階でPCR法を用いることが有用であると思われた.

アレルギー様食中毒を防除するために,今後も引き続き実態調査を継続し,汚染率の高い魚種を把握するとともに,水揚げから販売までの管理状況を調査し,汚染の原因を解明することが必要であると考える.

謝辞

本調査は県生活衛生課の事業で,検体搬入にご尽力いただいた県内保健福祉事務所の専門監視員の方々と,調査に対し,ご指導およびご助言をいただきました東京海洋大学の高橋肇先生に深謝いたします.

(平成20年7月28日受理)

文献

1)藤井健夫:アレルギー様食中毒,日本食品微生物学会誌,23(2)61-712006

2)厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課:平成18年度食中毒発生事例

3)観公子,牛山博文,新道哲也,上原真一,安田和夫:アブラソコムツによるヒスタミン食中毒,食衛誌,412),116-121,(2000

4) TakahashiH.,Sato  M.,Kimura,B.,Ishikawa,T. and Fujii,T.:Evaluation of the PCR single strand conformational polymorphism analysis for identification gram-negative histamine-producing bacteria isolated from fish J Food Prot70 (5) 1200-1205 (2007)

5NivenCF.,JeffereyMBand ColletDA.:Differential planting medium for quantitave detection of histamine-producing bacteriaApplie Environ Microbiol41(1)321-322(1981)

6)井部明広:アレルギー用食中毒:食中毒(食品安全セミナー@).pp. 215227,中央法規出版,東京(2001