感染症情報センター 神奈川県ロゴ
 トップページ > 感染症情報センター> 感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き(厚生労働省)

消毒・滅菌
[2004.5.13 掲載]

感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き

 

感染症の病原体で汚染された機器・器具・環境の消毒・滅菌は,適切かつ迅速に行って,汚染拡散を防止しなければならない。

手袋,帽子,ガウン,覆布(ドレープ),機器や患者環境の被覆材などには,可能なかぎり使い捨て製品を使用する。使用後は,専用の感染性廃棄物用容器に密閉するか,あるいはプラスチック袋に二重に密閉したうえで,外袋表面を清拭消毒して患者環境(病室など)より持ち出し,焼却処理する。

汚染した再使用器具は,ウオッシャーディスインフェクター,フラッシュイングディスインフェクター,またはその他の適切な熱水洗浄消毒器で処理するか,あるいは消毒薬に浸漬処理(付着汚染物が洗浄除去しにくくなることが多い)したうえで,用手洗浄を行う。そのうえで,滅菌などの必要な処理を行った後,再使用に供する。汚染した食器,リネン類は,熱水洗浄消毒または消毒薬浸漬後,洗浄を行う。

汚染した患者環境,大型機器表面などは,血液等目に見える大きな汚染物が付着している場合は,まずこれを清拭除去したうえで(消毒薬による清拭でもよい),適切な消毒薬を用いて清拭消毒する。清拭消毒前に,汚染微生物量を極力減少させておくことが清拭消毒の効果を高めることになる。

消毒薬処理は,滅菌処理と異なり,対象とする微生物の範囲が限られており,その抗菌スペクトルからはみ出る微生物が必ず存在し,条件が揃えば消毒薬溶液中で生存増殖する微生物もある。したがって,対象微生物を考慮した適切な消毒薬の選択が必要である。

各論に入る前に,次ページにその概要を一覧表にして示しておく。

 一類二類感染症の消毒法の概要
 
 T 一類感染症
   1 エボラ出血熱
   2 マールブルグ病
   3 クリミア・コンゴ出血熱
   4 ペスト
   5 ラッサ熱
   6 重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る
   7 痘そう(天然痘)
 
 U 二類感染症
   1 急性灰白髄炎(ポリオ)
   2 コレラ
   3 細菌性赤痢
   4 ジフテリア
   5 腸チフス、パラチフス
 
 V 三類感染症
   1 腸管出血性大腸菌感染症
     汚染物の消毒・滅菌
 
 W 四類感染症
   1 ウイルスの四類感染症
     1) ウイルスの消毒
     2) 疾患の特徴・媒介経路・感染防止
       (1) E型肝炎
       (2) ウエストナイル熱
       (3) A型肝炎
       (4) 黄熱
       (5) 狂犬病
       (6) 高病原性鳥インフルエンザ
       (7) サル痘
       (8) 肝症候性出血熱
       (9) デング熱
       (10) ニバウイルス感染症
       (11) 日本脳炎
       (12) ハンタウイルス肺症候群
       (13) Bウイルス病
       (14) リッサウイルス感染症
 
  2 クラミジアの四類感染症
     (1) オウム病
 
  3 リケッチアの四類感染症
     (1) Q熱
     (2) つつが虫病
     (3) 日本紅斑熱
     (4) 発しんチフス
 
  4 スピロヘータの四類感染症
     (1) 回帰熱
     (2) ライム病
     (3) レプトスピラ症
 
  5 原虫の四類感染症
     (1) マラリア
 
  6 蠕虫の四類感染症
     (1) エキノコックス症
 
  7 真菌(糸状菌)の四類感染症
     (1) コクシジオイデス症
 
  8 芽胞形成菌の四類感染症
     (1) 炭疽
     (2) ボツリヌス
 
  9 その他の細菌の四類感染症
     (1) ブルセラ症
     (2) 野兎病
     (3) レジオネラ病
 
 X (参考)五類感染症
    1) 患者への対応
    2) 手術対策と医療従事者への注意
    3) 汚染物の滅菌・消毒
 
 1 クリプトスポリジウム症
 2 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphy lococcus aureus;MRSA)感染症
 3 クロイツフェルト・ヤコブ病

一類,二類感染症の消毒法概要

一類感染症
 
消毒のポイント
消毒法

 エボラ出血熱

マールブルグ病

クリミア・コンゴ出血熱

ラッサ熱

厳重な消毒が必要である。患者の血液・分泌物・排泄物、およびこれらが付着した可能性のある箇所を消毒する

●80℃・10分間の熱水

●抗ウイルス作用の強い消毒薬
0.05〜0.5%(500〜5,000ppm)次亜塩素酸ナト リウムで清拭*,または30分間浸漬
アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)で清拭、または30分間浸漬
2〜3.5%グルタラールに30分間浸漬**

ペスト 肺ペストは飛沫感染であるが、患者に用いた機器や患者環境の消毒を行う

●80℃・10分間の熱水
●消毒薬
 0.1w/v%第四級アンモニウム塩または両性界面活性剤に30分間浸漬

0.2w/v%第四級アンモニウム塩または両性界面活性剤で清拭

0.01〜0.1%(100〜1,000ppm)次亜塩素三ナトリウムに30〜60分間浸漬

アルコールで清拭

重症急性呼吸器症候群
(SARS)
痘そう(天然痘)
患者環境などの消毒を行う エボラ出血熱と同様
二類感染症
 
消毒のポイント
消毒法
急性灰白髄炎
(ポリオ)
患者の糞便で汚染された可能性のある箇所を消毒する エボラ出血熱と同様
コレラ
細菌性赤痢
患者の糞便で汚染された可能性のある箇所を消毒する ペストと同様
ジフテリア 皮膚ジフテリアなどを除き飛沫感染であるが、患者に用いた機器や患者環境を消毒する
腸チフス
パラチフス
患者の糞便・尿・血液で汚染された可能性のある箇所を消毒する

*血液などの汚染に対しては0.5%(5,000ppm),また明らかな血液汚染がない場合には0.05%(500 ppm)を用いる.なお,血液などの汚染に対しては,ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒も有効である.

**グルタラールに代わる方法として,0.55%フタラールへ30分間浸漬や,0.3%過酢酸へ10分間浸漬があげられる.

 


T/一類感染症

1 エボラ出血熱

1)はじめに

1976年に,スーダンとコンゴ民主共和国(旧ザイール)で確認されたウイルス性出血熱の一種で,高熱と出血傾向などを主症状とする急性感染症である。感染源は動物(自然宿主)と考えられている。

 

2)感染経路1,2)

@患者の血液の誤刺

A患者の血液,尿,糞便,吐物および分泌物などへの接触

B患者との濃厚接触

 

3)患者への対応

原則として入院。第一種感染症指定医療機関(各都道府県に原則的に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

血液や体液などに起因する汚染拡散に留意する。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意1,2)

エボラウイルスはエンベロープと呼ばれる膜を持つウイルスであり,消毒薬抵抗性は高くない。しかし,エボラ出血熱の致死率は53〜88%と高いことから,厳重な消毒が必要である。また,消毒の際は手袋,ガウンおよびシューカバーなどを着用して行う。患者に咳嗽があれば,マスクやゴーグル(p.125参照)なども着用する。

なお,患者病室から物品を運び出す際には,プラスチック袋で二重に密閉し,外側を0.05%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。

 

6)汚染物の消毒・滅菌1-8)

(1)対 象

@患者の血液,分泌物および排泄物

A患者が使用した物品や病室

(2)消毒薬(商品名の詳細についてはp.99〜102「消毒薬一覧」参照,以下同様)

患者の体液や排泄物などの消毒には,次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)やジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒(プリセプト顆粒®)を用いる。また,金属製小物などにはグルタラール(グルタルアルデヒド :ステリハイド®,グルトハイド®,サイデックス®など)などが適している。なお,アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)も使用可能である。


2 マールブルグ病

1)はじめに

エボラ出血熱と同様に,ウイルス性出血熱の一種で,感染源は不明である(マールブルグウイルスの保有動物は判明していない)。

 

2)感染経路1,2)

@患者の血液の誤刺

A患者の血液,尿,糞便,吐物および分泌物などへの接触

B患者との濃厚接触

 

3)患者への対応

原則として入院。第一種感染症指定医療機関(各都道府県に原則的に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

血液や体液などに起因する汚染拡散に留意する。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意1,2)

マールブルグウイルスはエンベロープを持つウイルスであり,消毒薬抵抗性は高くない。しかし,マールブルグ病の致死率は23%との報告もあるので,厳重な消毒が必要である。

また,消毒の際は手袋,ガウンおよびシューカバーなどを着用して行う。患者に咳嗽があれば,マスクやゴーグルなども着用する。

消毒後の物品に対しては,可能なら高圧蒸気滅菌を行う。なお,患者病室から物品を運び出す際には,物品を収めたプラスチック袋などの消毒も必要となる。二重にしたプラスチック袋の外側を0.05%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。

 

6)汚染物の消毒・滅菌1-8)

(1)対 象

@患者の血液,分泌物および排泄物

A患者が使用した物品や病室

(2)消毒薬

患者の体液や排泄物などの消毒には,次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)やジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒(プリセプト顆粒®)を用いる。また,金属製小物などにはグルタラール(ステリハイド®,グルトハイド®,サイデックス®など)などが適用している。なお,アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)も使用可能である。


3 クリミア・コンゴ出血熱

1)はじめに

ウイルス性出血熱の一種で,アフリカ・東欧・中近東・中央アジア・インド・中国北西部の地方病である。

クリミア・コンゴ出血熱ウイルスの保有動物はウシ,ヒツジなどであり,媒介動物はダニである。

 

2)感染経路1,2)

@患者の血液の誤刺

A患者の血液,尿,糞便,吐物および分泌物などへの接触

B患者との濃厚接触

 

3)患者への対応

原則として入院。第一種感染症指定医療機関(各都道府県に原則的に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

血液や体液などに起因する汚染拡散に留意する。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意1,2)

クリミア・コンゴ出血熱ウイルスはエンベロープを持つウイルスであり,消毒薬抵抗性は高くない。しかし,クリミア・コンゴ出血熱の致死率は15〜70%と高いことから,厳重な消毒が必要である。

また,消毒の際は手袋,ガウンおよびシューカバーなどを着用して行う。患者に咳嗽があれば,マスクやゴーグルなども着用する。

消毒後の物品に対しては,可能であれば高圧蒸気滅菌を行う。なお,患者病室から物品を運び出す際には,物品を収めたプラスチック袋などの消毒も必要となる。二重にしたプラスチック袋の外側を0.05%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。

 

6)汚染物の消毒・滅菌1-8)

(1)対 象

@患者の血液,分泌物および排泄物

A患者が使用した物品や病室

(2)消毒薬

患者の体液や排泄物などの消毒には,次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)やジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒(プリセプト顆粒®)を用いる。また,金属製小物などにはグルタラール(ステリハイド®,グルトハイド®,サイデックス®など)などが適している。なお,アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)も使用可能である。

 


4 ペスト

1)はじめに

リンパ節腫脹や高熱などを主症状とする急性細菌感染症である。腺ペストと肺ペストの2型に分類される10,11)

ペスト菌(Yersinia pestis)の保有動物はネズミやリスなどであり,媒介動物はノミである。

 

2)感染経路1,2)

肺ペスト患者の飛沫の吸入や腺ペスト患者の膿への接触。敗血症型では血液に対する注意が必要である。

 

3)患者への対応

原則として入院。第一種感染症指定医療機関(各都道府県に原則的に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

気道分泌物などに起因する汚染拡散に留意する。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意

肺ペストは飛沫で伝播する12)。したがって,肺ペストの伝播防止にはマスクの着用が重要である。

 

6)汚染物の消毒・滅菌5-8)

(1)対 象

肺ペストは飛沫感染ではあるが,肺ペスト患者が使用した物品や病室の消毒も行う。また,患者の喀痰は焼却処分とする。

(2)消毒薬

ペスト菌に対しては,すべての消毒薬が有効である。第四級アンモニウム塩(オスバン®,オロナイン-K®,ヂアミトール®,ハイアミン®など)や両性界面活性剤(テゴー51®,エルエイジー®など),アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)などを用いる。

また,80℃・10分間の熱水も有効である(70℃・1分間や80℃・10秒間などの熱水でも有効と推定されるが,安全を見込んで80℃・10分間とする)。

 


5 ラッサ熱

1)はじめに

1969年にナイジェリアで確認されたウイルス性出血熱の一種で,西アフリカの地方病である。

ラッサウイルスの自然宿主動物はネズミ(Mastomys natalensis)である。

 

2)感染経路1,2)

@患者の血液の誤刺

A患者の血液,尿,糞便,吐物および分泌物などへの接触

B患者との濃厚接触

 

3)患者への対応

原則として入院。第一種感染症指定医療機関(各都道府県に原則的に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

血液や体液などに起因する汚染拡散に留意する。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

エアロゾルでの感染事例は報告されていない。

 

5)医療従事者への注意1,2)

ラッサウイルスはエンベロープを持つウイルスであり,消毒薬抵抗性は高くない。しかし,ラッサ熱の致死率は15〜20%と高いことから,厳重な消毒が必要である。

また,消毒の際は手袋,ガウンおよびシューカバーなどを着用して行う。患者に咳嗽があれば,マスクやゴーグルなども着用する。

消毒後の物品に対しては,可能であれば高圧蒸気滅菌を行う。なお,患者病室から物品を運び出す際には,物品を収めたプラスチック袋などの消毒も必要となる。二重にしたプラスチック袋の外側を0.05%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。

 

6)汚染物の消毒・滅菌1-8)

(1)対 象

@患者の血液,分泌物および排泄物

A患者が使用した物品や病室

(2)消毒薬

患者の体液や排泄物などの消毒には,次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)やジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒(プリセプト顆粒®)を用いる。また,金属製小物などにはグルタラール(ステリハイド®,グルトハイド®,サイデックス®など)などが適している。なお,アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)も使用可能である。


6 重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る。)

1)はじめに

コロナウイルス科の新しい型のウイルスであるSARSコロナウイルスにより発症する。2002年11月に中国広東省で初めての患者が確認され,2003年7月末までに計8,098名の患者が29の国・地域で報告されている。

 

) 感染経路

@飛沫感染,接触感染によるヒトからヒトへの感染が主。

A糞便からの糞口感染,空気感染の可能性なども完全に否定することはできないが,その頻度は低い。

 

) 患者への対応

原則として入院。第一種感染症指定医療機関(各都道府県に原則的に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

咳,くしゃみによる飛沫は1.5メートル以内の範囲に拡散するので,患者には通常のマスクを使用する。また,その際に口を覆った手指の洗浄,速乾性擦式アルコール製剤などによる消毒を励行する。

喀痰,血液や体液などに起因する汚染拡散に留意する。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないように防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意

SARSコロナウイルスはエンベロープを持つウイルスであり,本ウイルスの消毒薬抵抗性は高くない。

しかし,SARS感染者の21%は医療従事者が占めること,SARSの致死率は9.6%と高いこと,さらに,本ウイルスに関する詳細についてはいまだ明らかにされていないことなどから厳重な消毒が必要である。

消毒の実施は,マスク,ガウン,手袋,シューカバー,キャップを含む防護服を着用して行う。

消毒後の物品に対しては,可能であれば高圧蒸気滅菌を行う。なお,患者病室から物品を運び出す際には,物品を収めたプラスチック袋などの消毒も必要となる。プラスチック袋の外側を0.05%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。

使用後の防護服はバイオハザードバッグに入れ,高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)後に廃棄とする。

ただし,防護服をやむをえず再使用する場合には,水溶性ランドリーバッグに入れた後にプラスチック袋に密閉して運び出し,80℃・10分間などの熱水洗濯を行う。

 

6)汚染物の消毒

患者が使用した物品や病室が消毒対象となる。一方,SARSコロナウイルスに対しては,グルタラール(ステリハイド®,グルトハイド®,サイデックス®など),フタラール(ディスオーパ®),過酢酸(アセサイド®),次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など),アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)およびポビドンヨード(イソジン®,ポピヨドン®,ネオヨジン®など)などの消毒薬や,80℃・10分間などの熱水が有効である。

オーバーテーブル,ベッド柵,椅子,ドアノブ,洋式トイレの便座,および水道ノブなどには,アルコール清拭で対応する。また,ベッドマット,毛布,シーツ,および下着などのリネン類に対しては,80℃・10分間の熱水洗濯が適している。ただし,熱水洗濯機の設備がない場合には,0.05〜0.1%(500〜1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの30分間浸漬で対応する。なお,手指消毒には,消毒用エタノールを主成分とする速乾性手指消毒薬が適している。

 


7 痘そう(天然痘)

) はじめに

1980年にWorld Health Organization (WHO)が天然痘の世界根絶宣言を行っており,現在,痘そうウイルス(ポックスウイルス科オルトポックスウイルス)は自然界には存在しないが,研究目的で米国疾病管理センター(Centers for Disease Control and Prevention (CDC))とモスクワの研究所に保管された。モスクワの分は旧ソ連の崩壊時,それらがノボシビルスク近郊の軍事基地に移され,封印が解かれ研究が開始された経緯がある。米国疾病管理センターが痘そうを,特に危険性が高く最優先して対策を立てる必要がある「カテゴリーA」の生物兵器として位置づけるなど,生物テロによる被害の発生が懸念されている。

 

) 感染経路

飛沫およびエアロゾルによりヒトからヒトへと感染する。

 

) 患者への対応

原則として入院。第一種感染症指定医療機関(各都道府県に原則的に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

血液や体液および患者気道分泌物,呼気に起因する汚染拡散に留意する。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,焼却する。

再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないように防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意

痘そうウイルスはエンベロープを持つウイルスであり,本ウイルスの消毒薬抵抗性は高くない。しかし,本ウイルスは落屑中で年余にわたり生存でき,また痘そうの致死率は50%にも及ぶ。厳重な消毒が必要である。落屑・痂皮はすべて集め,滅菌する。

予防接種のためのワクチンが各都道府県に配布されている。米国において痘そうワクチン接種後の心合併症が報告されたが,因果関係は否定されている。消毒は,過去3年以内に予防接種を受けたスタッフが,マスク,ガウン,手袋,シューカバー,キャップを含む防護服を着用して実施する。

消毒後の物品に対しては,可能であれば高圧蒸気滅菌を行う。なお,患者病室から物品を運び出す際には,物品を収めたプラスチック袋などの消毒も必要となる。プラスチック袋の外側を0.05%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)で清拭する。また,使用後の防護服はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。ただし,防護服をやむをえず再使用する場合には,水溶性ランドリーバッグに入れた後にプラスチック袋に密閉して運び出し,80℃・10分間などの熱水洗濯を行う。

 

6)汚染物の消毒・滅菌

(1)対 象

患者が使用した物品や病室が消毒・滅菌の対象になる。特に,唾液,気道分泌物,痘疱内容,落屑などが付着した可能性のある物品(マクラやシーツなど)に対する消毒や滅菌が重要である。なお,落屑の飛散防止のため,物品などの取り扱い時にはチリやホコリが舞い上がらないように注意を払う。

(2)消毒薬による消毒

器械に対しては,2〜3.5%グルタラール(ステリハイド®,グルトハイド®,サイデックス®など)や0.55%フタラール(ディスオーパ®)への30分間浸漬,0.3%過酢酸(アセサイド®)への10分間浸漬などを行う。また,環境に対してはアルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)や次亜塩素酸ナトリウム(汚れがあれば0.5%(5,000ppm),汚れがなければ0.05%(500ppm))での清拭を行う。

(3)熱による消毒

80℃・10分間などの熱水や蒸気が有効である。器材に対してはウオッシャーディスインフェクター(93℃・10分間などの熱水)を,リネン類には熱水洗濯機(80℃・10分間などの熱水)を用いる。


U/二類感染症

1 急性灰白髄炎 (ポリオ)

1)はじめに

重症例では下肢などの麻痺が生じる中枢神経系感染症である。わが国では,生ワクチンの投与により野生株による発生はみられなくなった1,2)

 

2)感染経路12)

主に糞便―経口感染であるが,時に飛沫感染もある。

 

3)患者のへの対応

状況に応じ入院。第二種感染症指定医療機関(各二次医療圏に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

糞便,咽頭分泌液,血液などの曝露防止に注意を払う。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意

ポリオワクチンの予防接種を受けていれば(抗体を保有していれば),急性灰白髄炎に感染する可能性はない。

 

6)汚染物の消毒・滅菌5,14−21)

(1)対 象

主な消毒対象は,患者の糞便で汚染された可能性のある箇所(トイレ,水道ノブ,リネンなど)である。また,患者の喉頭分泌液で汚染された可能性のある箇所(食器など)も消毒する。

(2)消毒薬

次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など),グルタラール(ステリハイド®,グルトハイド®,サイデックス®など),アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)およびポビドンヨード(イソジン®,ポピヨドン®,ネオヨジン®など)などが有効である。糞便,環境およびリネンなどの消毒には,次亜塩素酸ナトリウムを用いる。また,洋式トイレの便座や水道ノブなどの消毒には,消毒用エタノールが有用である。なお,手指消毒には,消毒用エタノール,速乾性手指消毒薬(ウエルアップ®,ヒビスコール®,ヒビソフト®,イソジンパーム®など),および洗浄剤含有ポビドンヨード(イソジン®スクラブ,ネオヨジン®スクラグ,手術用ポピヨドン®など)が適している。


2 コレラ

1)はじめに

米のとぎ汁様の下痢,嘔吐,脱水などを主症状とする消化器感染症である。輸入感染症であるが,輸入した魚介類(特に冷凍品)などの摂取によると推定された国内感染例もある。古典型(アジア型),エルトール型,O139があり,現在流行しているのはエルトール型コレラである1,2)

 

2)感染経路12)

主に糞便―経口感染であるが,時に吐物も感染源となる。

 

3)患者への対応

状況に応じ入院。第二種感染症指定医療機関(各二次医療圏に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

糞便,吐物などの曝露防止に注意を払う。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意

糞便―経口ルートの遮断の観点から,手洗いや手指消毒が重要である。

 

6)汚染物の消毒・滅菌5,15-22)

(1)対 象

主な消毒対象は,患者の糞便で汚染された可能性のある箇所(トイレ,水道ノブ,リネンなど)である。

(2)消毒薬

  コレラ菌(Vibrio cholerae)に対しては,すべての消毒薬が有効である。第四級アンモニウム塩(オスバン®,オロナイン-K®,ヂアミトール®,ハイアミン®など),両性界面活性剤(テゴー51®,エルエイジー®など),次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)およびアルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)などを用いる。

  また,80℃・10分間の熱水も有効である(70℃・1分間や80℃・10秒間などの熱水でも有効と推定されるが,安全を見込んで80℃・10分間とする)。

 

 


3 細菌性赤痢

1)はじめに

国内での発生,および輸入感染症としての発生がある消化器感染症である。重症例では,頻回の便意とともに粘血便を排泄する1,2)

 

2)感染経路12)

糞便―経口感染である。

 

3)患者への対応

状況に応じ入院。第二種感染症指定医療機関(各二次医療圏に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

糞便の曝露防止に注意を払う。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意

細菌性赤痢の伝播は,小菌量で成立する23,24)。したがって,厳重な消毒が必要である。また,糞便―経口ルートの遮断の観点から,手洗いや手指消毒が重要である。

 

6)汚染物の消毒・滅菌5,15-22)

(1)対 象

主な消毒対象は,患者の糞便で汚染された可能性のある箇所(トイレ,水道ノブ,リネンなど)である。

(2)消毒薬

赤痢菌に対しては,すべての消毒薬が有効である。第四級アンモニウム塩(オスバン®,オロナイン-K®,ヂアミトール®,ハイアミン®など),両性界面活性剤(テゴー51®,エルエイジー®など),次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)およびアルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)などを用いる。

また,80℃・10分間の熱水も有効である(70℃・1分間や80℃・10秒間などの熱水でも有効と推定されるが,安全を見込んで80℃・10分間とする)。

 

 


4 ジフテリア

1)はじめに

ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)による急性感染症で,偽膜性炎症と毒素による中毒症状を特徴とする。予防接種により患者発生数は激減し,昭和44年以降では年間10人未満となっている1,2)

 

2)感染経路12)

ジフテリア患者の飛沫の吸入。皮膚ジフテリアは接触で伝播する。

 

3)患者への対応

状況に応じ入院。第二種感染症指定医療機関(各二次医療圏に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

飛沫の吸入防止に注意を払う。また,感染部位(咽頭,喉頭,鼻,皮膚など)の分泌液の曝露防止にも注意を払う。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。スタッフは厳重な呼吸器防御を行う。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

 

5)医療従事者への注意

ジフテリアは主に飛沫で伝播する。したがって,ジフテリアの感染防止にはマスクの着用が重要である。

 

6)汚染物の消毒・滅菌5,15-21)

(1)対 象

飛沫感染ではあるが,患者が使用した物品や病室の消毒も行う。また,患者の喀痰は焼却処分とする。

(2)消毒薬

ジフテリア菌に対しては,すべての消毒薬が有効である。第四級アンモニウム塩(オスバン®,オロナイン-K®,ヂアミトール®,ハイアミン®など),両性界面活性剤(テゴー51®,エルエイジー®など),次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)およびアルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)などを用いる。

また,80℃・10分間の熱水も有効である(70℃・1分間や80℃・10秒間などの熱水でも有効と推定されるが,安全を見込んで80℃・10分間とする)。

 


5 腸チフス,パラチフス

1)はじめに

高熱,バラ疹,下痢などを主症状とする感染症である。重症例では,腸出血や腸穿孔も起きる。腸チフスはチフス菌(Salmonella typhi)により,パラチフスはパラチフスA菌(Salmonella paratyphi A)により生じる1,2)

 

2)感染経路12)

糞便―経口感染が主であるが,尿や血液も感染源となりうる。

 

3)患者への対応

状況に応じ入院。第二種感染症指定医療機関(各二次医療圏に1か所)への入院を勧告する。

 

4)患者環境および観血的処置時の対策

糞便,血液,尿の曝露防止に注意を払う(健康保菌者はほとんどが胆嚢内保菌者である)。そのためにはシングルユース(ディスポーザブル)のシーツ,覆布,滅菌ドレープ類,ガウンその他を利用する。

シングルユースの汚染物はプラスチック袋で二重に密閉し,外袋を消毒した後に運搬し,高温焼却する。再使用器械・器材類は,密閉用容器(回収用コンテナなど)に密閉して,容器の外側を消毒した後に運搬し,適切に消毒または滅菌処理する。

針刺しや切創に注意し,血液飛沫を受けないような防御を行って臨む。

 

5)医療従事者への注意

糞便―経口ルートの遮断の観点から,手洗いや手指消毒が重要である。なお,腸チフスの伝播は,おおよそ105 個の菌量で成立する25)。一方,細菌性赤痢ではおおよそ100個である23)。したがって,家族内や病院内での腸チフスの伝播は,細菌性赤痢に比べると生じにくい。

 

6)汚染物の消毒・滅菌5,15-22)

(1)対 象

主な消毒対象は,糞便および尿で汚染された可能性のある箇所(トイレ,水道ノブ,リネンなど)である。

(2)消毒薬

チフス菌およびパラチフスA菌に対しては,すべての消毒薬が有効である。第四級アンモニウム塩(オスバン®,オロナイン-K®,ヂアミトール®,ハイアミン®など),両性界面活性剤(テゴー51®,エルエイジー®など),次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®,ピューラックス®,テキサント®,ハイポライト®など)およびアルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)などを用いる。

また,80℃・10分間の熱水も有効である(70℃・1分間や80℃・10秒間などの熱水でも有効と推定されるが,安全を見込んで80℃・10分間とする)。


V/三類感染症

1 腸管出血性大腸菌感染症

1)はじめに

Escherichia coli O157:H7(O157)は,腸管出血性大腸菌(Entero-hemorrhagic E.coli; EHEC)に属する下痢原性大腸菌である。ヒトの腸管に常在する大腸菌とほぼ同様であるが,ベロ毒素を産生する点で異なる。

感染が成立する菌量は約100個と少ない。ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌はO157が最も多いが,それ以外にもO1,O26,O111,O128,O145などの血清型の一部の菌がベロ毒素を産生する。

腸管出血性大腸菌感染症では,無症状から軽い腹痛や下痢を伴うもの,さらには頻回の下痢,激しい腹痛と血便などとともに尿毒症や脳炎により死に至るものまでさまざまである。有症状者の約6〜7%は,初発症状から2週間以内に溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome; HUS)や脳症を発症するため注意が必要である。

 

2)感染経路

感染経路は菌に汚染された飲食物を摂取するか,患者の糞便で汚染されたものを口にする経口感染である。ヒトからヒトへの二次感染を起こすこともある。

 

3)患者の対応

感染力,罹患した場合の重篤性などについて,総合的な観点からみた危険性は高くないが,飲食業などの職業を介して,集団発生を起こしうる感染症である。したがって特定職業への就業制限が行われ,臨床症状に応じて入院の可否を決定する。

 

4)手術対策

腸重積や急性虫垂炎として診断されることがある。手術中に患者の排泄物がなければ特別な処置は必要としない。術中に無意識に排泄物が出ることがあるので,あらかじめ紙おむつを当てておく。

手術終了後の室内清掃では特別な消毒薬は不要であり,清掃を主とした整備を行う。麻酔関連器材,手術器械の使用後処理も日常の方法でよい。

 

5)医療従事者への注意

接触感染の予防には手指の洗浄・消毒が最も効果的であり,患者の排泄物の処理にはゴム手袋を使用する。患者の糞便に触れた後は手袋をはずし,直ちに流水と石けんで十分に手洗し,速乾性擦式アルコール製剤にて手指消毒をする。

患者が自分で用便をした後の手指消毒の指導も徹底する。

 

6)汚染物の滅菌,消毒

(1)器 具

耐熱性の器具はウオッシャーディスインフェクターなど熱水を使用した洗浄装置で処理する。もしくは,素洗い後に80℃以上の熱水に10分間以上浸漬する。その後,器械組みして高圧蒸気滅菌など,通常の滅菌を行う。

非耐熱性のものは,流水による洗浄の後,薬液消毒または酸化エチレンガス滅菌,過酸化水素ガスプラズマ滅菌などにて滅菌する。

消毒薬として,アルコール系消毒薬,両性界面活性剤,ビグアナイド系消毒薬,塩素系消毒薬などが有効である。

(2)患者環境

消毒する重点領域は,患者の使用したトイレ,洗面所である。患者が用便した後はトイレの取っ手やドアのノブなど,直接触れた部位を中心に消毒する。

第四級アンモニウム塩,両性界面活性剤などの消毒薬による清拭消毒が中心となる。消毒薬の散布や噴霧はしない。

患者が使用した寝衣やリネンは,家庭用漂白剤に浸漬してから洗濯する。便汚染のあるシーツなども大きな汚染を水洗除去してから,同様に漂白剤に浸漬してから洗濯する。その他の物品は煮沸消毒または消毒薬による消毒を行う。食器は洗剤と流水で洗浄する。

患者の入浴はできるだけ浴槽につからず,シャワーか掛け湯を使用する。家族が入浴した最後に入り,他の者と一緒に入浴しないようにする。最後に風呂の水は流しておく。バスタオルは家族と共有しない。風呂桶の消毒は必要ない。

患児が家庭用ビニールプールを使う場合は,他の乳幼児とは一緒に使用せず,使用毎に水で洗って交換する。消毒の必要はない。

患者がいる家庭では,なま物の摂取はひかえ,必ず加熱(75℃・1分間または100℃・5秒間の加熱)して食物の中心部まで熱が十分届くように調理する。また,調理する者の手洗いの励行とまな板,包丁,食器,ふきんは熱水消毒する。

(3)分泌物,排泄物

分泌物や排泄物を消毒する場合は,水洗トイレ槽に第四級アンモニウム塩を最終濃度0.1〜0.5%になるように注ぎ,5分間以上放置後に流す。便の付着した物品の消毒は,糞便を洗い流した後に熱水もしくは家庭用漂白剤,第四級アンモニウム塩などで消毒する便器も同様に消毒薬で清拭消毒する。

 

 


W/四類感染症

四類感染症とは,動物,飲食物などの物件を介してヒトに感染し,国民の健康に影響を与えるおそれがある感染症である。媒介動物の輸入規制,消毒,物件の廃棄などの物的措置が必要とされる。

 

[対象疾患]

ウイルス性疾患……E型肝炎,ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む),A型肝炎,黄熱,狂犬病,高病原性鳥インフルエンザ,サル痘,腎症候性出血熱,デング熱,ニパウイルス感染症,日本脳炎,ハンタウイルス肺症候群,Bウイルス病,リッサウイルス感染症

クラミジア性疾患……オウム病

リケッチア性疾患……Q熱,つつが虫病,日本紅斑熱,発しんチフス

スピロヘータ性疾患……回帰熱,ライム病,レプトスピラ症

原虫性疾患……マラリア

蠕虫性疾患……エキノコックス症

真菌(糸状菌)性疾患……コクシジオイデス症

芽胞形成菌性疾患……炭疽,ボツリヌス症

その他の細菌による疾患……ブルセラ症,レジオネラ症,野兎病

 

1 ウイルスの四類感染症

) ウイルスの消毒

ウイルスの基本構造は,核酸のDNAかRNAのどちらか一方とそれを保護する殻蛋白(カプシドcapsid)である。この殻蛋白は多数のサブユニットから構成されており,螺旋状もしくは正20面体様の規則正しい配列となっている。

ウイルスは,脂質を含むエンベロープと呼ばれる膜で包まれている場合と,エンベロープを持たない小型球形ウイルスに分類できる。

消毒薬による不活性化を受けやすいか抵抗性かの違いは,エンベロープを有しているかどうかにより異なる。エンベロープを有するウイルスは消毒薬に対して感性である。

多くのウイルスは56℃・30分でカプシド蛋白質が変性して不活性化される。

エーテル,クロロホルム,フロロカーボンなどの脂質溶剤により,エンベロープを持つウイルスは容易に不活性化される。

エンベロープを持たないウイルスは,加熱処理に対しても抵抗性であり,小型であるため濾過による除去も困難である。

肝炎ウイルスでは,A型肝炎ウイルスにはエンベロープがなく,エーテルや酸に抵抗性があり,60℃・60分間の加熱では不活性化されないが,70℃・30分間,100℃・5分間で不活性化される。E型肝炎ウイルスもエンベロープを持たないが,A型肝炎ウイルスに対する消毒法が有効とされている26)。一方,B型肝炎ウイルスの抵抗性については,熱処理条件として,感染性不活性化実験で98℃・2分間(温度上昇4分を要す)とされている。B型肝炎ウイルスの消毒薬抵抗性は,当初考えられていたほど強いものではないことが判明している。

大部分のウイルスに効果を示す消毒薬(消毒法)を以下に示す。

@煮沸(98℃以上)1520分間

A2w/v%グルタラール

B0.05〜0.5w/v%(500〜5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム

C76.9〜81.4v/v%消毒用エタノール

D70v/v%イソプロパノール

E2.5w/v%ポビドンヨード 

F0.55w/v%フタラール

G0.3w/v%過酢酸

 

) 疾患の特徴・媒介経路・感染防止(E型肝炎,ウエストナイル熱〔ウエストナイル脳炎を含む〕,A型肝炎,黄熱,狂犬病,高病原性鳥インフルエンザ,サル痘,腎症候性出血熱,デング熱,ニパウイルス感染症,日本脳炎,ハンタウイルス肺症候群,Bウイルス病,リッサウイルス感染症)

(1)E型肝炎

病原体はE型肝炎ウイルス(従来はカリシウイルス科に分類されていたが,遺伝子構造解析により別の科に属すべきとされている)であり,未分類のウイルスでエンベロープを有しないため,消毒薬抵抗性は比較的強いものと思われる。糞便−経口感染が主体であり,ウイルスに感染したブタの糞便による食品や飲料水を介して感染する。症状は,腹痛,食欲不振,濃尿,発熱,肝腫大,黄疸,吐き気および嘔吐である。

感染防止は標準予防策で行うが,排泄物には感染性があるものとして対応する必要があり,失禁があれば接触予防策を追加して実施する。シカ肉の生食を原因とするE型肝炎ウイルス食中毒の発生事例が報告されている。特定のシカ肉を生で食べて6〜7週間後にE型肝炎を発症し,患者から検出されたE型肝炎ウイルスとシカ肉から検出されたものの遺伝子配列が一致していた。そのため,野生動物の肉などの生食は避けるべきである。さらに,妊婦に感染すると劇症肝炎を発症し,死亡する率が高いという研究結果があるため,妊婦は特に野生動物の生肉を食べてはならない。

(2)ウエストナイル熱

病原体はウエストナイルウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)で,エンベロープを有する。1937年にアフリカのウガンダWest Nile地方の発熱患者から分離された。カラスを含む野鳥と蚊の間で感染サイクルが維持される。ヒトは感染蚊(イエカやヤブカなど)に刺されて感染する。ヒトからヒトへの感染については,輸血や臓器移植を介した感染や,母乳を介した感染の報告がある。

潜伏期間は2〜14日である。通常は6日目までに発症する。臨床症状としては,突然の発熱(39℃以上)があり,頭痛や筋肉痛,食欲不振とともに,約半数で胸背部に発しんが認められる。まれに高齢者を中心に脳炎を発症し,激しい頭痛や意識障害を呈する。

感染防止には標準予防策をとる。

(3)A型肝炎

病原体はA型肝炎ウイルス(ピコルナウイルス科ヘパトウイルス属)であり,エンベロープを有しない。親水性であり消毒薬に対する抵抗性はかなり強いと思われる。糞便−経口感染が主体であるが血液を介した感染もある。ウイルスに汚染された飲料水や食物を介して感染することが多い。上水道汚染,汚染食品などにより集団発生することもある。症状は,突然の発熱と悪心嘔吐,右季肋部痛,尿の濃染などで,黄疸がみられることもある。HAワクチン接種が行われている。

感染防止は標準予防策で行うが,失禁があれば接触予防策を追加して実施する。

(4)黄 熱

病原体は黄熱ウイルス(トガウイルス科フラビウイルス属)でエンベロープを有する。致死率の高い国際検疫伝染病である。ヒトやサルにネッタイシマカなどの蚊を介して感染する。蚊に刺されてから3〜6日で突然の高熱で発症し,黄疸,出血などの症状が出現する。

感染防止には標準予防策をとるが,患者の血液による汚染には十分注意する必要がある。

(5)狂犬病

病原体は狂犬病ウイルス(ラブドウイルス科ラビエスウイルス)で,エンベロープを有する。キツネ,アライグマ,スカンク,コウモリなどの野生動物に感染サイクルが成立している。日本国内では1957年以降の発生は報告されていない。

症状は,不安・不穏,頭痛,恐水発作,全身痙攣,呼吸麻痺などを呈し,致死性である。

感染防止には標準予防策をとる。患者の唾液や体液などの取り扱いには注意する。感染リスクの高いヒト(ウイルスを取り扱う専門家など)は事前に狂犬病ワクチンの接種を行う。

(6)高病原性鳥インフルエンザ

病原体は鳥インフルエンザウイルス(A/H5,H7など)である。特に病原性の高い鳥インフルエンザウイルスによるトリの感染症を指すが,香港,オランダなどで患者から鳥インフルエンザが分離された事例がある。このウイルスはエンベロープを有するウイルスであり,消毒薬抵抗性は比較的低い。

A型インフルエンザウイルスにはH1〜15,N1〜9の亜型があり,ヒトに感染する亜型はA(H1N1)型,A(H2N2)型,A(H3N2)などであり,そのほかは通常トリに感染するがヒトには感染しないとされている。   

この鳥インフルエンザウイルスがヒトへの感染力を高めた場合には大流行が懸念される。

感染防止は標準予防策に飛沫感染予防策を追加して行う。

(7)サル痘

病原体は痘そうウイルスと同じポックスウイルス科オルトポックスウイルス属のサル痘ウイルス(モンキーポックスウイルス)である。エンベロープを有するウイルスで消毒薬抵抗性は比較的低い。2003年6月に米国でペット動物(感染して発病したプレーリードッグなど)に近接したヒト等71例の報告があった。その後もサルなどの霊長類に散発的に発生している。人獣共通感染症である。この ウイルスは,1970年にコンゴ民主共和国(ザイール)で発見されたもので,オルトポックスウイルスの一種が病因で,臨床的に痘そうに類似しているが,生物学的にも疫学的にも痘そうとは異なる。

症状は,発熱,倦怠感,頭痛,筋肉痛,リンパ節腫脹などであり,発しんは痘そうと同様に次第に盛り上がり,水疱から膿疱となって痂皮で覆われてくる。

器材の表面の消毒には次亜塩素酸ナトリウムが使用される。

感染防止は標準予防策に加えて,飛沫予防策と接触予防策を追加して実施するが,場合により空気予防策が必要となる。種痘はサル痘を予防するのに有効であるとされている。

(8)腎症候性出血熱

病原体はハンタウイルス(ブニヤウイルス科ハンタウイルス属)が主で,エンベロープを有する。ウイルスのキャリアとしてドブネズミが確認されている。ヒトからヒトへの感染はないが,急性期の患者の血液や尿からはウイルスが分離されている。症状は発熱,出血,腎機能障害である。

感染防止には標準予防策を実施する。

(9)デング熱

病原体はデングウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)であり,エンベロープを有する。感染蚊であるネッタイシマカの媒介によりヒトに感染する。熱帯,亜熱帯地域に分布している。症状は発熱や発しんであり,出血や血圧低下を示す場合もある。

感染防止は標準予防策であり,患者の血液や体液を介した感染の防止が大切である。

(10)ニパウイルス感染症

病原体はニパウイルス(パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ヘニパウイルス属)であり,エンベロープを有する。従来,オオコウモリの体内で生息していたウイルスが,養豚場のブタの尿,唾液,肺分泌物を介してヒトへ感染した。ウマ,イヌ,ネコにも感染する。ブタの尿や鼻汁で汚染されたものによる接触感染である。症状は,ヒトでは神経症状が主体であり,激しい咳,痙攣,呼吸器障害のため開口呼吸などがみられることもある。

感染防止は標準予防策と接触予防策をとる。

(11)日本脳炎

病原体は日本脳炎ウイルス(フラビウイルス科)であり,エンベロープを有する。感染しているブタなどを吸血したコガタアカイエカの媒介により感染する。ウイルスが中枢神経系へ侵入して,頭痛,発熱で発症する。症状が進行すると髄膜刺激症状としての項部硬直やKernig徴候などがみられる。 

意識障害や昏睡となることもある。

感染防止は標準予防策をとる。患者の血液や体液の取り扱いには注意を要する。

(12)ハンタウイルス肺症候群

病原体はハンタウイルス肺症候群ウイルス(ブニヤウイルス科ハンタウイルス属)であり,エンベロープを有する。ウイルスのキャリアはシカシロアシマウス(北米),コトンラット(南米),コメネズミ(南米)などである。日本には生息しない。症状は突然の発熱であるが,進行性の呼吸困難や頻脈がみられ,肺水腫様の症状やショック症状を呈する。

感染防止は標準予防策をとる。

(13)Bウイルス病

病原体はBウイルス(オナガザルヘルペスウイルス)であり,エンベロープを有する。マカカ属サルが媒介となり,感染サルに咬まれたり引っ掻かれたりして,サルの唾液が創傷に付着することにより感染する。創傷部位に水疱や潰瘍を形成する。所属リンパ節の腫脹や発熱,頭痛,下半身麻痺などの症状が進行する。

感染防止は標準予防策をとる。

(14)リッサウイルス感染症

病原体はリッサウイルス(ラブドウイルス科)でエンベロープを有する。リッサウイルス属であるラビエスウイルスによる狂犬病と類似の症状を呈する。宿主ないしベクターは,大翼手亜目や小翼手亜目(食虫コウモリ,オオコウモリ,食果実コウモリ)などであり,ウイルスを有するコウモリに咬まれたり,引っ掻かれたりすると感染する。症状は,狂犬病と類似の運動麻痺や呼吸障害などが中心であり,致死性である。有効な対策はない。国内ではまだウイルスは見つかっていない。

感染防止には標準予防策をとる。感染リスクの高いヒト(ウイルスを取り扱う専門家など)は事前に狂犬病ワクチンの接種を行う。

 


2 クラミジアの四類感染症

) はじめに

クラミジアは,0.3〜0.4μmであり細菌より小さい。細胞寄生性で,宿主となる細胞の中では大型で感染性のない網様体として増殖し,封入体を形成している。

 

) クラミジアの消毒

クラミジアは,低水準消毒薬であるクロルヘキシジン,第四級アンモニウム塩,両性界面活性剤および中水準消毒薬であるポビドンヨードにおいて有効性が確認されている。したがって,大部分の消毒薬に感受性があるといえる。

クラミジアで汚染された器材は,0.1〜0.5w/v%両性界面活性剤,もしくは0.1w/v%第四級アンモニウム塩などの低水準消毒薬を使用する。

環境消毒は,汚染局所に対して消毒の必要性がある場合に行う。使用する消毒薬は器材の場合と同様で,0.1〜0.5w/v%両性界面活性剤,0.1〜0.5w/v%第四級アンモニウム塩である。

汚染リネンは,熱水消毒(80℃・10分間),もしくは0.05w/v%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウム溶液に30分間以上浸漬して消毒する。

 

) 疾患の特徴,媒介経路,感染防止

(1)オウム病

病原体はオウム病クラミジアで,セキセイインコ,オウム,ハトなどの鳥類を媒介とする感染症である。排泄物に含まれる菌体を吸入することにより感染する。口移しで餌を与えても感染することがある。症状は発熱と乾性咳を伴う。その他,全身倦怠感や筋肉痛などのインフルエンザ様症状を呈する。

感染防止は標準予防策をとる。

 


3 リケッチアの四類感染症

) はじめに

リケッチアは細菌より小さく,動物の細胞内で増殖し,無細胞の人工培地では発育できない。発しん性の熱性疾患である。通常は節足動物の腸管に寄生し,ダニ,シラミ,ノミなどによって媒介される。

感染予防には,媒介動物であるシラミ,ダニ,ノミなどの駆除とともに,衛生環境の改善と清潔保持が大切である。つつが虫病においては,ツツガムシの吸着に注意するほか予防策はない。

 

) リッケチアの消毒

細胞外のものは一般に不安定である。リケッチアは熱に弱く56℃の加熱で容易に死滅する。

消毒薬に対する抵抗性も弱く,アルコールなどで消毒できる。また,リケッチアは脆弱な外被膜を有しており,超音波処理30〜60秒処理で破壊される。

 

) 疾患の特徴・媒介経路・感染防止

(1)Q 熱

病原体はコクシエラ・バーネッティで,媒介動物はマダニ,シラミ,ハエなどであるが,ヒトへの感染は保菌宿主であるウシ,ヒツジ,ヤギ,ネコなどの動物由来である。汚染獣皮や毛皮類の塵埃の中の病原体を吸入することにより経気道感染する。また,汚染された非殺菌生乳を介しての経口感染もある。その他,感染動物の尿や糞便も感染源になりうる。

症状は,悪寒戦慄を伴う急激な発熱,頭痛,筋肉痛,全身倦怠感などであるが,胸痛や粘稠喀痰の排泄,髄膜刺激症状を呈することもある。

(2)つつが虫病

病原体はオリエンチア・ツツガムシで,自然界での宿主はツツガムシである。このツツガムシは,土壌中を生息場所としている。ツツガムシの幼虫がリケッチアを保有して,ヒトの皮膚に咬みついた部分から感染する。

主症状は発熱と頭痛,悪寒,筋肉痛で,発しんは第5病日までに出現し,刺咬創部位の皮膚は,黒褐色の痂皮を形成する。

感染防止は標準予防策にて行う。

(3)日本紅斑熱

病原体はリケッチア・ジャポニカで,紅斑熱リケッチアの一種である。感染したマダニの媒介によってヒトに感染する。保菌宿主はネズミ,イヌ,ウサギである。

主症状は,刺された後に高熱と頭痛および刺し口の紅斑をきたす。 

感染防止は標準予防策にて行う。

(4)発しんチフス

病原体はリケッチア・プロワツェキィイ(発しんチフスリケッチア)で,感染したコロモジラミの媒介により,ヒトに感染する。病原体はコロモジラミの消化管(中腸)の細胞内で増殖し,細胞が破れて病原体が消化管内腔に広がり,糞と一緒に排泄される。シラミに刺されただけでは感染せず,刺された痕を掻くと刺し口に同時に付着している糞の中のリケッチアが擦り込まれて感染する。また, 排泄物を塵埃として吸入して感染することもある。保菌宿主はヒトとムササビである。

感染防止は標準予防策にて行う。

 


4 スピロヘータの四類感染症

1)はじめに

螺旋状の形体で,活発な運動を行う菌群である。トレポネーマ属,ボレリア属,レプトスピラ属などがある。トレポネーマ属はヒトや動物に寄生し,梅毒などの病原体となる。ボレリア属は回帰熱, 

ライ病の病原体で,シラミ,ダニを介して感染する。梅毒は五類感染症に分類されている。

 

) スピロヘータの消毒

消毒薬に対する抵抗性は弱い。低水準消毒薬で対応する。0.1〜0.5w/v%両性界面活性剤,0.1〜0.5w/v%第四級アンモニウム塩を使用する。熱を使用する場合では,トレポネーマ属は42℃以上で速やかに死滅する。4℃では3日間で感染力を消失する。レプトスピラ属も熱には弱く,50〜55℃・30分間の加熱で死滅する。

環境の消毒が必要な場合は,0.1〜0.5w/v%両性界面活性剤,0.1〜0.5w/v%第四級アンモニウム塩を使用する。リネン類は熱水消毒(80℃・10分間),もしくは0.05w/v%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウム溶液に30分間以上浸漬して消毒する。

 

) 疾患の特徴,媒介経路,感染防止

(1)回帰熱

病原体はスピロヘータ科ボレリア属のボレリア・レカレンチス(回帰熱ボレリア)などである。シラミやダニが媒介する。日本にはこの十数年間において感染患者の報告はない。症状として,発熱,頭痛,筋肉痛,脾腫などが現れるが,高熱が数日続いて,いったん解熱後に1〜2週後にまた発熱する。これを繰り返すため,回帰熱と呼ばれる。

ヒトからヒトへの感染はないが,患者の血液には注意が必要である。そのため標準予防策で対応する。

(2)ライム病

病原体として,スピロヘータ科ボレリア属のボレリア・ブルグドルフェリなどが確認されている。野ネズミや小鳥が保菌動物となっており,吸血したマダニにより媒介される。日本でも数百件の報告がある。マダニの刺咬部を中心に遊走性紅斑が出現する。その他,発熱,筋肉痛,悪寒,倦怠感などのインフルエンザ様症状がみられることもある。

感染防止は標準予防策をとる。

(3)レプトスピラ症

病原体はレプトスピラ・インテロガンスなどであるが,230種以上もの多くの血清型が存在する。黄疸出血性レプトスピラ症はワイル病ともいわれる。秋季にみられるレプトスピラ症は,地方病として秋疫(あきやみ)などの病名がついている。ドブネズミ,野ネズミなどのげっ歯類を中心に,イヌ,ブタ,ウシなどの多くの哺乳動物が保菌動物となる。保菌動物の尿に汚染された水や土壌を介して,皮膚から体内に侵入して感染する。ヒトからヒトへの感染はまれである。

レプトスピラ症は,発熱,悪寒,頭痛,筋痛,結膜充血などの初期症状があり,黄疸出血性レプトスピラ症ではその後,出血,黄疸,腎不全などがみられる。

感染防止は標準予防策で対応し,特別な消毒は必要ない。

 


5 原虫の四類感染症

) はじめに

原虫は動物界に属する単細胞微生物であり,細胞壁はない。四類感染症にはマラリアのみが該当する。三日熱マラリア,卵形マラリア,四日熱マラリアなどでは生命の危険を及ぼすことはない。しかし,熱帯熱マラリアでの薬剤耐性化が問題となっている。

 

) 原虫の消毒

通常の接触では二次感染はないと考えられるため,器材の消毒は用途に応じた処置を行う。クリティカルな領域への使用器材は滅菌を行い,セミクリティカルな領域への器材は高水準消毒薬を使用する。熱水消毒が推奨される。

 

) 疾患の特徴,媒介経路,感染防止

(1)マラリア

病原体として,熱帯熱マラリア原虫,三日熱マラリア原虫,四日熱マラリア原虫,卵形マラリア原虫の4種類の原虫がある。熱帯熱マラリアは治療薬剤に対して耐性があり,致死的になる場合がある。

感染経路は感染しているハマダラカの体内で増殖した原虫が,唾液腺にスポロゾイドとして移行し,ヒトを刺した時にスポロゾイドがヒトの体内に注入される。その後,肝細胞内で増殖したメロゾイトが赤血球内に侵入して発症する。

症状は,発熱,頭痛,悪寒,倦怠感,関節痛,消化器症状,咳などの呼吸器症状がみられる。脳症,肺水腫,急性腎不全,黄疸などの重症化例もある。

感染経路として,輸血や針刺しによる感染の報告もあるため,標準予防策を厳守する必要がある。

 


6 蠕虫の四類感染症

) はじめに

蠕虫とは線虫類,吸虫類,条虫類を指すが,その中で条虫類に属する単包条虫および多包条虫の感染に起因するエキノコックス症が四類感染症にあげられている。

 

) エキノコックスの消毒

エキノコックスの虫卵は消毒薬に対する抵抗性がきわめて強いが,加熱あるいは冷凍処理によって不活性化することができる。

 

) 疾患の特徴,媒介経路,感染防止

(1)エキノコックス症

日本では北海道に多包条虫が分布している。終宿主であるキタキツネやイヌなどの糞便中に排出された多包条虫の虫卵が,水や食物,手指を介してヒトに経口感染する。摂取された虫卵は肝臓で包虫として発育して病巣を形成し,進行すると肝腫大などの症状を起こす。

肝以外にも,肺,脳,骨などあらゆる臓器に寄生し,障害を引き起こす。

感染防止としては,野生のキタキツネなどにさわらないこと,その糞便で汚染されたものを避けること,有病地では山野の生水を飲まないことなどである。また,飼い犬の感染防止も重要である。

 


7 真菌(糸状菌)の四類感染症

) はじめに

真菌の中では病原性が強いコクシジオイデス症が四類感染症に分類されている。

 

) 真菌(糸状菌)の消毒

ポビドンヨード,次亜塩素酸ナトリウム,フタラール,過酢酸,グルタラールを使用する。

 

) 疾患の特徴,媒介経路,感染防止

(1)コクシジオイデス症

米国南西部(中心はアリゾナ,カリフォルニア)から中南米各地の風土病であり,病原体は二形成真菌に属するコクシジオイデス・イミチスである。本菌は土壌中で菌糸状に発育し,感染型である分節型分生子(単細胞)を形成する。流行地において,空中に浮遊する分節型分生子を吸入することにより,肺に初感染巣が形成される。

症状は咳や発熱など,感冒に類似しているが,全身感染に進展すると死に至る場合もある。

細菌検査室における感染防止上,最も大切なことは,被験者の流行地への渡航歴の把握であり,本感染症が疑わしいものについては培養の段階から専門家に依頼する必要がある。一般の細菌検査室で本菌を不用意に培養した場合,分節型分生子の吸入による感染事故(検査室内感染)が起こりやすく,きわめて危険である。

 

 


8 芽胞形成菌の四類感染症

) はじめに

芽胞形成菌の中で,四類感染症に含まれるものは炭疽とボツリヌス症のみである。

 

) 芽胞の消毒

芽胞には高水準消毒薬の長時間接触が必要である。高水準消毒薬のうち,芽胞にも有効な消毒薬は化学滅菌剤とも呼ばれている。グルタラールと過酢酸が該当する。グルタラールの場合には3時間以上の浸漬を行う。0.3w/v%過酢酸では30分間以上の浸漬が必要である。欧米では,1,000ppmの二酸化塩素や6w/v%以上の安定化過酸化水素なども使用されている。

消毒に先立って,洗浄を十分に行い,付着している芽胞の数を減らしておくことが大切である。

炭疽菌の汚染物は滅菌もしくは焼却が基本であるが,消毒を行う場合には特別な対応が必要となる。

過酢酸,二酸化塩素,次亜塩素酸ナトリウムが最も有効とされている。作業者は防護服を着用して作業に当たらなければならない。

炭疽菌の消毒方法に関しては,WHO資料の厚生労働省による抜粋要約がある(http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1116-1g.html)。しかし,この中の薬剤には日本で市販されていないものもあり,また高濃度の薬剤では作業者への十分な注意が必要である。

 

) 疾患の特徴,媒介経路,感染防止

(1)炭 疽

病原体は炭疽菌バシラス・アンスラシスであり,土壌中に存在し,創傷への直接的な付着あるいは吸入や経口的に芽胞が体内に侵入して発病する。芽胞の侵入門戸により,皮膚炭疽,肺炭疽,腸炭疽に分けられる。

ヒトからヒトへの感染はない。特に重篤な肺炭疽では,発熱,悪寒,頭痛などのインフルエンザ様症状に加えて,呼吸困難からチアノーゼを呈して昏睡となる場合もある。

 感染媒体は家畜,感染動物の加工品,昆虫の刺傷による皮膚感染,大気中の芽胞の吸入などである。

 感染防止は標準予防策を徹底する。

(2)ボツリヌス

病原体はボツリヌス菌クロストリジウム・ボツリナムである。

病型は食餌性ボツリヌス症(食中毒),創傷ボツリヌス症,乳児ボツリヌス症,成人腸管定着型ボツリヌス症,その他の5つに分類される。いずれにおいても,本菌が産生する菌体外毒素による神経機能の障害のために弛緩性麻痺が生じ,嚥下困難,呼吸麻痺などの症状を呈する。

食餌性ボツリヌスは食品中でボツリヌス菌が増殖して産生した毒素を経口的に摂取することによって発症する。創傷ボツリヌスは,創部(または注射部位)から侵入した菌が皮下組織などで増殖し,産生した毒素により発症する。

乳児ボツリヌス症と小児および成人の腸管定着型(乳児型)ボツリヌス症は,芽胞が混入した食品を摂取することにより,腸管内で芽胞が発芽・増殖し,産生した毒素の作用によって発症する。汚染された蜂蜜が乳児ボツリヌス症の原因になることがあるので,1歳未満の乳児には蜂蜜を与えるべきでない。

 


9 その他の細菌の四類感染症

) はじめに

芽胞形成菌以外の細菌の中で四類感染症に分類されたものは3つの疾患のみである。

 

) 芽胞形成菌以外の細菌の消毒

芽胞形成菌以外の細菌は消毒薬に対する抵抗性が弱く,ほとんどすべての消毒薬が有効である。したがって,生体毒性の低い副作用のない消毒薬が適応であり,生体には生体消毒薬を,環境には環境消毒薬を選択する。

(1)器 材

第四級アンモニウム塩,両性界面活性剤,次亜塩素酸ナトリウム,消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノールを使用する。

(2)環 境

患者環境の床は通常の清掃を行う。局所的な汚染に対して消毒薬が適用される。両性界面活性剤もしくは第四級アンモニウム塩が選択される。日常的に手が触れる環境表面はアルコールにて定期的に清拭消毒を行う。

(3)リネン類

80℃・10分間の熱水洗濯,もしくは0.05w/v%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウム液に30分間浸漬消毒をする。

 

) 疾患の特徴,媒介経路,感染防止

(1)ブルセラ症

病原体はブルセラ・メリテンシスをはじめとするブルセラ属菌(グラム陰性桿菌)による感染である。地中海地方で発生し,自然宿主はヤギ,ブタ,ヒツジ,ウシなどの家畜類で,感染動物の血液や肉,非加工乳製品との接触もしくは汚染エアロゾルの吸引で感染する。

症状は,発熱,夜間発汗,体重減少,倦怠感などの全身症状が主体である。

感染防止は標準予防策を適用する。

(2)野兎病

病原体は野兎病菌フランシセラ・ツラレンシスを代表とするグラム陰性小短桿菌である。芽胞を形成しないため,消毒薬に対する抵抗性は弱い。人獣共通感染で感染した野兎や,野生げっ歯類との接触,解体,調理時に皮膚や粘膜から感染する。ダニやアブなどの節足動物を介した感染や汚染塵芥,河川水から感染することもある。ヒトからヒトへの感染の確実な報告はない。

症状は感冒様症状で,皮膚や粘膜の潰瘍を伴うこともある。リンパ節腫大や敗血症を呈することもある。診断は皮内反応,血清凝集反応にてなされる。

感染防止は標準予防策で対応する。

(3)レジオネラ症

病原体はレジオネラ・ニューモフィラを代表とするレジオネラ属の細菌である。土壌や水環境中に生息する菌で,塵埃の吸入や水中生息菌のエアロゾルを吸入することにより発症する経気道感染の様式をとる。重症型がレジオネラ肺炎,軽症型がポンティアック熱といわれる。

肺炎型では,発熱,呼吸困難,頭痛,意識障害,精神神経系症状など,呼吸器症状以外の症状もみられる。ポンティアック熱は感冒様症状のことが多い。

感染経路は飛沫感染である。クーリングタワー,循環式浴槽,シャワー,加湿器,ネブライザーなどの汚染に注意する。レジオネラはバイオフィルム中のアメーバに寄生して増殖するが,アメーバは細菌よりも消毒薬に抵抗性なので,バイオフィルムを物理的に除去することも重要である。

クーリングタワーの消毒は,塩素(5〜10ppm)や2〜4%の過酸化水素を2〜3時間循環させる方法がある。病院内のシャワー設備が感染源であった場合には,65℃以上の温湯を5分間以上流し,蛇口での残留塩素濃度を10ppm以上に維持する方法が推奨されている。

 

 


X/(参考)五類感染症

五類感染症とは,国が感染症の発生動向の調査を行い,その結果などに基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に情報提供・公開していくことによって,発生・まん延を防止すべき感染症である。

 

[全数]

  アメーバ赤痢,ウイルス肝炎(A型およびE型を除く),急性脳炎(ウエストナイル脳炎および日本脳炎を除く),クリプトスポリジウム症,クロイツフェルト・ヤコブ病,劇症型溶血性レンサ球菌感染症,後天性免疫不全症候群,ジアルジア症,髄膜炎菌性髄膜炎,先天性風しん症候群,梅毒,破傷風,バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症,バンコマイシン耐性腸球菌感染症

[定点]

RSウイルス感染症,咽頭結膜熱,インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザを除く),A群溶血性レンサ球菌咽頭炎,感染症胃腸炎,急性出血性結膜炎,クラミジア肺炎(オウム病を除く),細菌性髄膜炎,水痘,性器クラミジア感染症,性器ヘルペスウイルス感染症,成人麻しん,尖圭コンジローマ,手足口病,伝染性紅斑,突発性発しん,百日咳,風しん,ペニシリン耐性肺炎球菌感染症,ヘルパンギーナ,マイコプラズマ肺炎,麻しん(成人麻しんを除く),無菌性髄膜炎,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症,薬剤耐性緑膿菌感染症,流行性角結膜炎,流行性耳下腺炎,淋菌感染症

 

1) 患者への対応

疾患特有の感染経路が存在することを認識して対応する。さらに感染経路別に有効な感染防止策を施す。

(1)空気感染

適切な空調,換気,高性能濾過マスクを着用する。

(2)飛沫感染

手指消毒の徹底。接する医療従事者は手袋,マスク,ゴーグル,プラスチックエプロン,キャップなどを必要に応じて装着する。環境清掃を徹底する。

(3)接触感染

手指消毒と清掃の徹底。接する医療従事者は手袋,プラスチックエプロン,その

他の標準予防策を実施する。

 

) 手術対策と医療従事者への注意

(1)空気感染防止

@負圧設定の手術室を使用する

A麻酔回路にはフィルターを付ける

B医療従事者は高性能マスク(N95マスク)を装着する

C麻しんや風しんでは職員の抗体検査やワクチン接種についても考慮し,抗体のない者は患者に近寄らない

(2)飛沫感染防止

@麻酔回路にはフィルターを付ける

A医療従事者は外科用マスクを着ける

B職員の抗体検査の実施

(3)接触感染防止

@手袋で対応する。汚染物に触れた後は手袋を交換する

A単回使用ガウンを着る

B清掃などの日常的な環境の清浄化を徹底する

(4)血液・体液曝露事故防止対策の基本

@手洗いと手指消毒

A手袋,プラスチックエプロン,ゴーグルなどでバリアプリコーション

B床などが血液汚染した場合は次亜塩素酸ナトリウムで局所的に清拭

C血液や体液汚染のリネンは密封して搬送

D針刺し防止策の実施

E感染性廃棄物の適正処理

F創のある皮膚は滅菌ドレッシング材で保護

 

) 汚染物の滅菌・消毒

(1)肝炎ウイルスの消毒

B型肝炎ウイルスは比較的消毒薬抵抗性が強い。WHOではグルタラールと次亜塩素酸ナトリウムを推奨しているが,アルコールやポビドンヨードにも感染性不活性化作用があり有効である。

手指消毒には,速乾性擦式アルコール製剤を使用するが,目に見える汚染がある場合には流水と石けんにより手を洗う。器具類の消毒は,2w/v%グルタラールに30分間〜1時間の浸漬を行う。洗浄と熱水消毒が同時にできるウオッシャーディスインフェクターの使用が望ましい。

床などの環境消毒は,目に見える血液汚染がある場合には,0.5w/v%(5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムによる局所の清拭消毒を行う。明らかな血液汚染がない場合には日常の清掃のみでよい。

テーブルやドアのノブなど手指が頻繁に触れる部位は,定期的にアルコールで清拭消毒を行う。

血液汚染のあるリネン類は,現場で水溶性ランドリーバッグなどに密封して運搬し,熱水洗濯処理80℃・10分間以上)する方法が最も効果的である。非耐熱性の素材の場合には,微温湯で洗浄した後にすすぎで 0.01〜0.02w/v%次亜塩素酸ナトリウム溶液で5分間浸漬処理する。

(2)エイズウイルスの消毒

エイズウイルスは消毒薬や熱に対する抵抗性が低いため,B型肝炎ウイルスに準じた処理法がなされていれば問題ない。

消毒薬として次亜塩素酸ナトリウム,グルタラール,フタラール,過酢酸,消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール,ポビドンヨードなどによる処理が感染性不活性化に有効である。

エイズ患者の血液が付着した器具などを洗浄した廃液は,浄化槽へ廃棄しても差し支えない。

(3)その他のウイルスの消毒

インフルエンザウイルス,狂犬病ウイルス,麻しんウイルス,黄熱ウイルスともにエンベロープを有しており,消毒薬に対する抵抗性は弱い。熱に対する抵抗性も,56℃・30分でウイルスのカプシド(殻蛋白)が変性して不活性化される。

紫外線の照射により核酸が障害を受けて不活性化する。また,エーテルなどの脂質溶媒や次亜塩素酸ナトリウム,グルタラール,フタラール,過酢酸は強い不活性化作用を示す。アルコールも有効である。

 


1 クリプトスポリジウム症

) はじめに

激しい下痢と腹痛を主症状とする原虫による感染症である。水道水の汚染による大規模な集団発生事例も内外で報告されている。この原虫は通常の塩素処理では殺滅できない点や浄水処理を適切に実施しないと十分な除去ができない場合があるため,新たな飲料水安全管理対策が求められている。

 

) 感染経路

ヒトのほか,ウシやネコなど多種類の哺乳動物に寄生する。その腸管粘膜上皮細胞の微絨毛内で増殖し,やがてオーシスト(嚢子)を産生する。オーシストは糞便とともに排出されるが,排出された時点で感染性を有している。いわゆる糞口感染の様式をとり,汚染された食品,飲料水,手指を介して感染する。

 

) 患者の対応

治療薬がないため自然治癒を待つほかないが,エイズ患者などの免疫不全の状態にある患者では重症化する場合があるので注意が必要である。患者の排泄物は確実な処理が必要である。入浴は最後にして,他の者との混浴は避ける。食産業の従事者は消化器症状がある場合には休業が望まれる。

 

) 医療従事者への注意

オーシストは手指や器具の消毒に使用される消毒薬の通常の濃度では死滅しないため,病院内感染を起こす可能性もある。汚物で汚染された衣類やリネンは熱水消毒を行う。また,フィルターの種類によってはオーシストの除去ができないこともあり,飲料水の清浄化には十分な配慮が必要である。

 

) 感染予防法

@手洗いの徹底と紙タオルの使用(タオルの共有を避ける)

A性行為の場合には肛門や糞便に触れないように注意する

B牧場への立ち入りや,家畜(特に幼獣)との接触を極力避ける

Cペットの便をさわらない

D野菜などのなま物はよく洗うか熱を通して食べる

E湖,川,プールで泳ぐ時には水を飲まないように注意する

 

) 飲料水の清浄化

@水道水などに汚染が認められた(広報された)場合には,指示に従い煮沸した水を飲む。飲料水の質の劣化を避けるため,煮沸後時間をおかずに飲む。

Aオーシストの大きさは4〜6μmであり,一般的な家庭用フィルターでは濾過できないため,濾過粒径1μm以下のフィルターを使用する。逆浸透膜法も有効である(例えば,米国NSF標準53フィルターを用いる)。

瓶詰めの水でも,蒸留したもの,逆浸透膜を利用したもの,1μm以下のフィルターを使用したものは安全であるが,一般的なマイクロフィルター処理水,カーボンフィルター処理水,オゾン処理水,紫外線照射水,イオン交換水,脱イオン水,塩素殺菌水などは,クリプトスポリジウムを確実に除去できない。

 

) 水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針の概要(厚生労働省水道課)1996.10(最新改訂2001.11)

水道におけるクリプトスポリジウム対策の必要性から水道事業者や都道府県が講ずべき予防的措置や応急措置について暫定対策指針が定められている。水道水源における排出源の有無の調査や,指標菌である大腸菌あるいは嫌気性芽胞菌を検査し,糞便による水道原水の汚染の有無を把握することにより,水道源水道水のクリプトスポリジウムによる汚染のおそれを判断する。

予防対策としては,浄水場はクリプトスポリジウムを十分に除去することができる浄水処理(急速ろ過法,緩速ろ過法または膜ろ過法)を行い,ろ過池出口の水の濁度を常時把握して,濁度を0.1度以下に維持するなどのガイドラインが示されている。

 


2 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染症

1)はじめに

黄色ブドウ球菌はヒトの鼻腔や皮膚に常在しており,皮膚軟部組織感染症や慢性中耳炎,食中毒などの感染の原因となる。MRSAは多剤耐性化の傾向が強く,易感染患者に対する病院感染の原因菌の中では特に注目されている。

 

2)感染経路

易感染患者では,患者に定着(保菌)している菌による内因性感染が主体である。また,病院感染として医療従事者の手指,医療用具,留置カテーテル,手術や医療処置などにより感染する場合もある。

 

3)患者の対応

保菌者および感染症を発症している患者において,感染源を遮蔽する。 

広範な褥瘡感染,気管切開患者,便失禁患者など排菌量が多い場合には,個室収容が望ましいが,感染部位を有効に遮蔽できれば個室収容にはこだわらない。

 

4)手術対応

鼻腔内MRSA定着と自己感染(内因性感染)としての術後MRSA感染症との関連性は明確でない。しかし,MRSAが病院内の常在菌化している日本の現状を考慮するとき,術後感染症を惹起した場合には,MRSA感染症の可能性に十分配慮した対処が必要である。

術前の消毒薬を使用したシャワー浴または入浴は,皮膚の微生物コロニー数を減少させるが,手術部位感染率を低下させることを明確に示すエビデンスはない。

皮膚切開部の消毒は,ポビドンヨード,グルコン酸クロルヘキシジンが有効であり,後者のほうが皮膚細菌を著しく減少させ,またその抗菌活性の皮膚への残留が大である。

MRSAの感染経路は接触感染であるので,手術室では通常のスタンダードプリコーションを確実に実行することが大切である。

手術後の部屋の処置は,目に見える汚染がなければ通常の清掃を実施する。明らかに汚染がある場合には,両性界面活性剤,第四級アンモニウム塩で局所的に消毒する。

 

5)医療従事者への注意

基本的には接触感染であり,排菌量の多い患者を診療した後には医療従事者が汚染を受け,MRSAの定着が起こりやすい。 

@体位変換,患者清拭,ベッドメーキングなどに際して,塵埃が浮遊する可能性がある場合には,マスク,キャップ,エプロン,手袋で防御する

A患者に直接接した器材や衣服は消毒もしくは交換する

B患者に接する前後には必ず手指消毒を行う

C手指消毒は速乾性擦式アルコール製剤もしくはポビドンヨード,グルコン酸クロルヘキシジンなどのスクラブ剤を用いる

Dその他の基本的な衛生事項を守り,清潔に心がける

 

6)汚染物の滅菌,消毒

MRSAを含む黄色ブドウ球菌は,消毒薬に対する抵抗性が弱い。ほとんどすべての消毒薬が有効である。

したがって,MRSAの消毒には生体毒性の低い副作用のない安全な消毒薬が適応であり,生体には生体用消毒薬を,環境や器具には環境用消毒薬を選択する。 

0.2〜0.5w/v%両性界面活性剤,0.2〜0.5w/v%第四級アンモニウム塩,0.01〜0.02%次亜塩素酸ナトリウム溶液へ60分間の浸漬もしくはアルコールによる清拭消毒をする。熱を利用した消毒では,70℃・1分でも殺菌されるが,通常は 80℃・10分間の条件が適当である。

内視鏡はグルタラール,フタラール,過酢酸を使用した通常の処理をする。

 

7)患者環境

手術室の床や病室の床は日常の湿式清掃でよいが,清掃回数を増やして清潔に心がける。また,消毒を行う場合には 0.2〜0.5w/v%両性界面活性剤,0.2〜0.5w/v%第四級アンモニウム塩で清拭消毒する。カート,ドアのノブ,トイレの便座などはアルコールで清拭消毒する。浴槽の消毒は特別な汚染がないかぎり通常の処理でよい。必要な場合には0.2〜0.5w/v%両性界面活性剤で清拭した後に温水でリンスをする。

 

8)リネン類

シーツなど特別な汚染がない場合には日常の洗濯を行う。MRSAによる汚染が明らかな場合には,水溶性ランドリーバッグか指定のビニール袋に入れて運搬し,80℃・10分間の熱水洗濯を基本とする。設備がない場合には,通常の洗濯を行った後に0.01〜0.02w/v%次亜塩素酸ナトリウム溶液中で5分間浸漬する方法もあるが,脱色に注意する。

 

9)分泌物,排泄物

MRSA患者からの分泌物が付着した汚染物は,院内では感染性廃棄物として密封して処理する。

 


3 クロイツフェルト・ヤコブ病

) はじめに

プリオンによる疾患である。

 

2)滅菌法

@高圧蒸気滅菌134℃・18分間

A高圧蒸気滅菌134℃・3分間をくり返し6回

B1N NaOH浸漬2時間(腐食性あり)

C1〜5w/v% 次亜塩素酸ナトリウム浸漬2時間 

(参照:遅発性ウイルス感染調査研究班.クロイツフェルト・ヤコブ病診療マニュアル(改訂版).厚生労働省特定疾患対策研究事業2002.)


文 献

1) CDCManagement of patients with suspected viral hemorrhagic fever. MMWR 198837 (No.S-3)1-15.

2) CDCUpdatemanagement of patients with suspected viral hemorrhagic fever-United States. MMWR 199544 (No.25)475-479.

3) Breuer J, Jeffries DJControl of viral infections in hospitals. J Hosp Infect 199016191-221.

4) Coates D, Hutchinson DNHow to produce a hospital disinfection policy. J Hosp Infect 19942657-68

5) Rutala WAAPIC guideline for selection and use of disinfectants. Am J Infect Control 199624313-342.

6) Ayliffe GAJ, Coates D, Hoffeman PNChemical Disinfection in Hospitals, Public Health Laboratory Service, London, 1993.

7) Ayliffe GAJ, Lowbury EJL, Geddes AM, Williams JDControl of Hospital Infection, Chapman & Hall Medical, London, 1993.

8) Reynolds JEF (ed.)Martindale The Extra Pharmacopoeia. 31th ed. The Pharmaceutical Press, London, 1996.

9) Fisher-Hoch SP, Khan JA, Rehman S, Mirza S, Khurshid M, McCormick JBCrimean Congo-Haemorrhagic Fever treated with oral ribavirin. Lancet 1995346472-475.

10) 厚生省保健医療局結核感染症課:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律.中央法規出版,東京,1998.

11) 東京都衛生局医療福祉部結核感染症課:東京都感染症マニュアル.東京都情報連絡室,東京,1994.

12) Garner JSGuideline for isolation precautions in hospitals. Infect Control Hosp Epidemiol 19961753-80.

13) Fisher-Hoch SP, Price ME, Craven RB, et alSafe intensive-care management of a severe case of Lassa Fever with simple barrier nursing techniques. Lancet 1985ii1227-1229.

14) Tyler R, Ayliffe GAJ, Bradley CVirucidal activity of disinfectants with sludies with the poliovirus. J Hosp Infect 199015339-345.

15) Gardner JF, Peel MMIntroduction to Sterilization, Disinfection and Infection Control. 2nd ed. Churchill Livingstone, Melbourne, 1991.

16) Ayliffe GAJ, Coates D, Hoffman PNChemical Disinfection in Hospitals. Public Health Laboratory Service, London, 1993.

17) Ayliffe GAJ, Lowbury EJL, Geddes AM, Williams JDControl of Hospital Infection. Chapman & Hall Medical, London, 1993.

18) Ayliffe GAJ, Collins BJ, Taylor LJHospital-acquired Infection. 2nd ed. Butterworth Heinemann, Oxford, 1993.

19) American Medical AssociationDrug Evaluations Annual 1995, W.B. Saunders Company, Philadelphia, 1995.

20) Reynolds JEF (ed.)Martindale The Extra Pharmacopoeia. 31th ed. The Pharmaceutical Press, London, 1996.

21) Oie S, Kamiya A, Tomita M, et alEfficacy of disinfectants and heat against Escherichia coli O157H7. Microbios 1999987-14.

22) Sagripanti J, Eklund CA, Trost PA, Jinneman KC, Abeyta C, Kaysner CA, et alComparative sensitivity of 13 species of pathogenic bacteria to seven chemical germicides. Am J Infect Control 199725335-339.

23) DuPont Hl, Hornick RB, Snyder MJ, Libonati JP, Formal SB, Gangarosa EJImmunity in shigellosis.U. protection induced by oral live vaccine or primary infection. J Infect Dis 197212512-16.

24) Keene We, McAnulty JM, Hoesly FC, Williams LP, Hedberg K, Oxman GL, et alA Swimming-associated outbreak of hemorrhagic colitis caused by Escherichia coli O157H7 and Shigella sonnei. N Engl J Med 1994331579-584.

25) Hornick RB, Greisman SE, Woodward TE, Dupont HL, Dawkins AT, Snyder MJTyphoid feverpathogenesis and immunologic control. N Engl J Med 1970283686-691.

26) Thraenhart Q, Jursch CMeasures for disinfection and control of viral hepatitis. InBlock SS, ed. Disinfection, Sterilization and Preservation, 8th ed. PhiladelphiaLippincott Williams & Wilkins 2001585-615.

 



  トップページへ戻る │  感染症情報センターへ戻る │ このページのトップへ
本ホームページの著作権は神奈川県衛生研究所に帰属します。
Copyright© 2004 Kanagawa Prefectural Institute of Public Health. All rights reserved.