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感染症情報
[2005.1.17 掲載]
 

特 集

薬剤耐性肺炎マイコプラズマの調査成績(中間報告)

 
 国内では2000年以降、薬剤耐性肺炎マイコプラズマが患者から分離されています。
神奈川県内においても2003年8月から開始した調査で、耐性肺炎マイコプラズマが分離されました。 
 
肺炎マイコプラズマ
 肺炎マイコプラズマはヒトの肺炎(マイコプラズマ肺炎)の起因菌で、本肺炎は小児の間では重要な感染症です。最近では、高齢者にも意外に多いのではないかと言われており、今後、急速に進む高齢化社会において集団発生が懸念されるところです。本肺炎は咳と発熱を主症状として発症し、予後は比較的良好ですが、希に髄膜脳炎等の中枢神経疾患を併発し、重症となる例が報告されています。
 以前は4年周期で本肺炎の流行が繰り返されていましたが、現在ではその周期性が崩れてきており、日常的な感染症となりつつあります。感染症新法では五類感染症に属し、定点把握対象の届出の感染症となっていますが、1982年から神奈川県の事業として培養検査によるマイコプラズマ肺炎調査を開始し、現在も調査を継続して実施しています。
 肺炎マイコプラズマとは自己増殖する最小の病原細菌で、細胞壁を欠くことが最大の特徴です。一般細菌と同様に寒天培地や液体培地で培養することが可能ですが、増殖が遅く、しかも、コロニーの大きさは0.1 mm以下であり、液体培地で増殖しても濁らないので、増殖したことを肉眼的に確認することができません。このような肺炎マイコプラズマの培養検査や薬剤感受性試験は一般細菌とは異なる感覚と技術を要し、煩雑でもあることから、それを実施している機関は当衛生研究所を含めても国内では極めて少ないのが現状です。
 

薬剤耐性肺炎マイコプラズマの出現
 マイコプラズマ肺炎の治療にはマクロライド系、テトラサイクリン系あるいはニューキノロン系の薬剤が有効ですが、小児に対しては副作用の少ないマクロライド系薬剤が第一選択薬剤として使用されています。ところが、最近、国内においてはマクロライド系薬剤に耐性を示す肺炎マイコプラズマが患者から分離されるようになってきました。
 
    
表1 国内におけるマクロライド系薬剤耐性肺炎マイコプラズマの分離状況
  地 域    分離年   検査株数   耐性株数(%)
  北海道   2000-2002     26     4(15.4)
  高知県    2002     6      2(33.3)
  神奈川県    2003     47     7(14.9)
  山形県    2003     5     0(0)
           84     13(15.5)
 
 2000年に札幌市で分離された肺炎マイコプラズマを当衛生研究所で調べた結果、マクロライド系薬剤に高度耐性を示すことが判明し、以後、高知県で分離された菌株もやはり耐性菌でした。このような状況から、2003年から国立感染症研究所が中心となり、厚生労働省の研究事業において薬剤耐性肺炎マイコプラズマの調査研究を実施することになりました。当所も共同研究機関となって業務を進めていますが、現在までに確認された国内におけるマクロライド系薬剤耐性菌の分離状況を表1に示します。2000〜2003年までに分離された84株の肺炎マイコプラズマを検査したところ、13株(15.5%)が耐性で、これは予想外の高分離率でした。また、耐性菌は蛋白合成に関与する23S rRNA遺伝子に変異を起こしており、それが耐性に大きく関与していることが分かりました。
 

神奈川県における薬剤耐性肺炎マイコプラズマの調査
 
表2 神奈川県におけるマクロライド系薬剤耐性
    肺炎マイコプラズマの経年的分離状況
 当衛生研究所では、2003年から重点基礎 研究事業において肺炎マイコプラズマの薬剤耐性に関する調査研究を進めています。   
まず、耐性菌がいつ頃から出現し始めたのかを知るため、1986年〜2003年に本県内で分離された肺炎マイコプラズマの薬剤感受性試験を実施しました。当所では以前から肺炎マイコプラズマ分離株を保存していたため、このような試験ができます。その結果、表2に示すように、2003年に分離された菌株の中にマクロライド系薬剤耐性菌が見つかりました。
  年 次 検査株数* 耐性株数(%)
1986-1990   171     0 (0)
1991-1995   87   0 (0)
1996-2000   38   0 (0)
2001-2003   47   7 (14.9)
?※1999〜2002年の県内分離株は0
                       
 表3に、その詳細を記載します。
 
表3 県内で分離された肺炎マイコプラズマ47株に対するマクロライド(ML)系
およびテトラサイクリン(TC)系薬剤の最小発育阻止濃度(MIC; μg/ml)
     

     菌 株
  薬 剤
     耐 性 株 (7株)
感受性株(40株)
A2063G(6株) A2064G(1株)


ML




 
リスロマイシン   >256    256  0.0156-0.0625
オレアンドマイシン    >256   >256  0.0156-0.0625
クラリスロマイシン    >256    32  0.0156-0.031
アジスロマイシン    32-64    16  <0.00195
ジョサマイシン    8-16    256  0.0156-0.0625
スピラマイシン    8-16   >256  0.0625-0.25
キタサマイシン    4-16   >256  0.0031-0.0625
ロキタマイシン    0.5-1    32  0.0156-0.0625
TC
テトラサイクリン    0.5-2     1   0.25-2
ミノサイクリン    0.5-2     1   0.25-2
 
 47株の肺炎マイコプラズマについてマクロライド系とテトラサイクリン系薬剤に対する感受性試験(最小発育阻止濃度;MIC)を実施した結果、7株(14.9 %)がマクロライド系薬剤に耐性でした。表2のように、本県では2000年以前には耐性菌は分離されていませんので、最近の数年間で耐性菌が急増したと言えます。この状況はおそらく本県以外の地域においても同様と思われます。これらの耐性菌の遺伝子を調べたところ、2種類の遺伝子変異(A2063G、A2064G)が判明し、変異部位により一部のマクロライド系薬剤にはかなり低いMIC(最小発育阻止濃度)を示す菌株もありました。本県以外で分離された耐性菌株(表1)においても、遺伝子変異が見つかっており、変異部位の違いにより、種々のマクロライド系薬剤に対するMICに差異が見られましたが、これに関しては誌面の都合で別の機会に説明することにします。このような肺炎マイコプラズマの変異菌は突然変異で出現し、それが薬剤により選択されて増殖するとの説が現在有力です。しかし、なぜ最近急に増加したのかは不明です。
 

今後の課題と対策
 マクロライド系薬剤耐性の肺炎マイコプラズマであっても、テトラサイクリン系あるいは一部のニューキノロン系薬剤は有効です。しかし、これらは小児に対して副作用を示すことが知られており、使用が制限されているようです。従って、マクロライド系薬剤耐性の肺炎マイコプラズマが今後更に増えていくと、大きな問題になりかねません。
 現在、当所では継続して県内外における耐性肺炎マイコプラズマの調査を実施すると供に、耐性菌が急激に増加してきた要因の解明、耐性菌の迅速検査法や耐性菌にも有効な薬剤について検討中で、成果も期待できそうです。これらの調査・検討を進める上で、神奈川県の事業における小児科定点および基幹定点病院からの培養検査用検体(咽頭拭い液)が貴重な材料となります。今後とも検体の収集にご協力を頂きますよう、この誌上をお借りしてお願い致します。
 
参考資料 : 衛生研究所ホームページ  データボックス
       「衛研 NEWS 103 −薬剤耐性の肺炎マイコプラズマについてー」
          
 
 
[ 2004.1.15 掲載 ]


薬剤耐性肺炎マイコプラズマの出現

 平成12〜14年にかけて高知市及び札幌市において、エリスロマイシン耐性の肺炎マイコプラズマ株が分離されています。これらの菌株は、エリスロマイシンを 含めたマクロライド及び新マクロライド系薬剤のほとんどに高度の耐性を示します。
  神奈川県においても平成15年8月から県内病院の協力を得て本格的な調査を始めたところ、マクロライド系薬剤に耐性を示す肺炎マイコプラズマが分離されました。
 国内においては平成11年まで肺炎マの薬剤耐性菌は殆ど分離されていなかったことから、今回の調査結果は、最近の急激な耐性菌の増加を示唆するものです。 〔平成16年1月15日掲載〕

                            


(微生物部・企画情報部)


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