令和2年6月26日掲載

ウイルス学エピソード

(5)ウイルスの個数って数えられる?

ウイルスは電子顕微鏡でないと見えない大きさです。どうやって数えればいいのでしょうか?電子顕微鏡でみて数えることができるでしょうか?

図1の走査電子顕微鏡写真で固まっている球状のものがヒト免疫不全ウイルス(HIV)粒子です。しかし、これがHIVであるという証拠はありません。まわりに少し見える細胞の表面構造物の中にも上から見ると球状に見えるものもあります。

楕円で囲んだあたりに大きさと形状からHIV粒子と考えられるウイルス粒子が多数存在するが、数えるのは困難。細胞表面にニョロニョロと出ているのがビライという細胞の構造物。

図1 ヒト単核球上のHIV粒子の走査電子顕微鏡写真(著者撮影、原図;大阪医科大学)

表面を見るのがダメなら断面を見ればよいだろうか?透過型電子顕微鏡の写真が図2です。

の先がウエストナイルウイルス粒子、さて写真の中にいくつウイルスが見えるかな?

図2 ウエストナイルウイルス粒子の透過型電子顕微鏡写真(原図;国立感染症研究所)

透過型電子顕微鏡のサンプルは、感染細胞や感染組織などをグルタールアルデヒドなどで固定した後、樹脂に包埋し固まったその樹脂を60~90nm(nm = 1/1,000,000 mm)になるように薄切します。その超薄切片を透過型電子顕微鏡で観察します。たとえばインフルエンザウイルスの大きさは80~120nm、HIVは約100nmです。60nmの超薄切片だと1個のウイルス粒子を2箇所で切断する可能性があります。つまり、ウイルスの正確な個数を数えることはほぼ不可能だということです(図3)。

ウイルス粒子を薄い切片で切ると2回切断する可能性があります。

図3 ウイルスの薄切例(HIVの場合)

しかも、電子顕微鏡で数えるウイルスは、電子線による破損を防ぐため固定され染色されているので、生きたウイルスではありません。またPCRでウイルス遺伝子のコピー数を算出できますが、これもウイルスの個数ではありません。ウイルス遺伝子あるいは遺伝子の断片を数えているのに過ぎないのです。

生きた感染性のあるウイルスの個数を測定する方法はないのでしょうか?!あります。ただしあくまで概数です。
その古典的な方法が「プラーク形成法」です。ウイルスに感染して細胞が壊れてはがれることにより出来た穴の数を測定します。

図4 新型コロナウイルスがVero細胞に形成したプラーク

図4は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がVero細胞に形成したプラーク(plaque:斑)です。青く染まっているのが一層に増殖して拡がったVero細胞で、透明に抜けているのがプラークです。プラークを作らせる方法は、プレートの底面で増殖して層状になった細胞にウイルス液を接種して、その後粘稠な培養液を加えて4日目に、ホルマリンでウイルスを不活化すると同時にVero細胞を固定して青い色素で染色したものです。
ウイルスを増殖させるときは通常、液体の培養液を使いますが、感染細胞から細胞外に遊離したウイルスが液中を自由に動いて非感染の細胞に感染して驚異的に増えていきます。ウイルスの移動を防ぎ感染細胞に隣接する細胞に感染が拡がるようにするとプラークが出来るのです。そのために粘稠な培地を加えます。
理論上は感染性ウイルス粒子が1つあれば1つのプラークが形成されます。しかし、ウイルスは必ずしも1個ずつばらばらに存在しているわけではありません。たとえば3個が固まって(図5)いても作るプラークは1つの場合もあるのです。「概数」といったのはそのためです。

図5 プラーク形成法で分かるのはウイルスの概数

プラークを形成させるには数日かかり、ウイルスによってはプラークを作れない場合もあります。そこで「フォーカス形成法」を用いる場合もあります。この方法はウイルス感染細胞中のウイルス抗原に抗体を反応させて染める方法で、ウイルス接種後1~2日でフォーカスを測定することが可能です。難点はウイルス抗原としっかり反応する抗体が必要である点です。

腸管出血性大腸菌感染症(たとえばO157)の患者の陰性確認は、大腸菌O157が24時間以上の間隔をおいて連続2回の検便で、いずれもO157の菌体が検出されないことを確認することで、O157の遺伝子が検出されないことを確認することではありません。そういう点では、ウイルス感染症の陰性確認もプラーク形成法などで感染性粒子を確認するべきなのです。ただ、難点は手間と日数がかかることです。今後、感染性粒子をより簡単に検出する方法の開発が待たれます。

神奈川県衛生研究所長
髙崎 智彦
(図:木村 睦未)

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