令和2年4月22日掲載

ウイルス学エピソード

(1)ウイルスの生態

ウイルスは生きた細胞の中でしか増殖できない変わった微生物で、ヒト、動物、植物にさまざまな病気をおこします。ウイルスは核酸(RNAまたはDNA)と蛋白質で構成されます。半数くらいのウイルスはその外側に膜(エンベロープ)を持ちます。ヒトの1000万分の1の大きさの電子顕微鏡でないと見えない非常に小さな微生物です。


図1 エンベロープを持つウイルスと持たないウイルス

ウイルスは細菌と異なり自分で蛋白を合成できません。細菌は細胞ですがウイルスは細胞ではありません。ウイルスが子孫を残すためには、自分の好むつまり感受性のある細胞(宿主細胞)に到達し、RNAかDNAという設計図をもとに、入り込んだ細胞のタンパク合成力を利用して子孫ウイルスを大量に増殖させるわけです。そのため細胞は自分の蛋白を作られず死んでしまいます。ウイルスの増殖過程は、『吸着→侵入→脱殻→遺伝子発現→遺伝子翻訳→蛋白合成→ウイルス粒子形成→細胞外に放出』となります。


図2 ウイルスの増殖過程

ウイルスが吸着するためには、細胞膜上にそのウイルスの外殻と親和性のある分子(受容体)が存在する必要があります。受容体のない細胞はそのウイルスにとってはツルツルの表面をもった壁のようなものです。この受容体は、わざわざウイルスのために用意されているものではなく、細胞本来の機能のために必要な働きをもつ分子であることが多い。細胞にとっては思いがけない分子を受容体として利用され迷惑千万というところです。そのような分子をウイルスが受容体として利用するので、その受容体が細胞にとって必須の機能を持つ場合、進化の過程が違ってもその構造がそこそこ保存されていて、ウイルスが種の壁を超えることがあります。


図3 受容体

ウイルスが侵入して細胞外に放出されるまでを”暗黒期”といってウイルスが存在しないかの如く見える時期です。この時期にウイルスを検出することは、まずできません。たとえウイルス遺伝子検出であっても感染細胞をうまく採取できる可能性は極めて低い。この暗黒期の時間はウイルスや宿主細胞の種類にもよりますが数時間から十数時間です。したがってウイルスに暴露した、汚染した場合に、翌日にどんなに感度の高い遺伝子増幅検査をしてもウイルス遺伝子を検出する可能性は極めて低いです。

ウイルスは本来の宿主のなかでは、比較的おとなしいものなのです。かれらは自己の複製を目的にして宿主に入り込みますが、その病原性があまりに激烈であれば、結局自分も死滅しコピーを次代につなげることができなくなってしまう。今回の新型コロナウイルスも長いスパンで見れば、ヒトへの病原性は低くなるでしょう。しかしヒトは本来の宿主ではないので直線的に病原性が低くなるのではなく、時に凶暴な顔を見せたりしながらヒトという新しい宿主にアダプトしていくと推測されます。

神奈川県衛生研究所長
髙崎 智彦
(図:木村 睦未)

トップページへ戻る試験検査へ戻るウイルス学エピソードへ戻るこのページのトップへ